北本市史 通史編 自然

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第6章 北本の生物

第5節 優れた自然

1 石戸宿付近

北里研究所のメディカルセンター病院は、農林省の農事試験場跡地に昭和六十年(一九八五)以降に建設されたものである。その周辺の斜面は八重塚山(やえづかやま)(標高二六・ニメートル)を中心とした雑木林で、下草にヤブコウジ、ギンラン、センブリなどの野草が可憐な花を咲かせる。
八重塚山の北方、城ケ谷堤の東方に広がる湿地は、昭和六十年(一九八五)ころまでは水田であったが、その後は放置された。さいわいここの水源は主として自然の湧き水であり、生活雑排水や農薬の混入がほとんどないので、湿生植物と水生昆虫、水生動物の宝庫となった。ヨシ、マコモ、ガマなどが生え、昆虫類では、甲虫類が四六〇余種も発見されいてる。特筆すべきことはこの中に環境庁指定の危急種ホンシュウオオイチモンジシマゲンゴロウが含まれていることである。

写真37 石戸宿の谷地と斜面林

また、石戸宿から採集された標本によって、カントウチビシデムシが新種として記載された。
蝶類は六〇種にものぼり、ミヤマセセリ、ツマグロキチョウ、コツバメ、コジャノメなどが注目される。蛾類は四一四種が知られており、フシキキシタバ、イチモンジヒメヨトウなどが採集されている。
トンボ類は四一種、特にナゴヤサナエ、ホンサナエ、アオサナエ、アオヤンマ、ネアカヨシヤンマ、マルタンヤンマ、ヤブヤンマ、コノシメトンボなどが記録されているトンボ類の宝庫となっている。
半翅類(はんしるい)は一ニ〇種にものぼり、これには環境庁が希少種としているエサキアメンボ、ババアメンボが含まれている。またタイコウチ、ミズカマキリも生息している。平成四年(一九九二)には湿地の水分が不足し乾燥化が著しく、これらの水生昆虫類の生存が危ぶまれている。
湿地の周辺は、平成四年に県立北本自然観察公園となり、中心の自然学習センターとそこから水鳥を観察するための池が造成された。センターの東に続く湿地にはツリフネソウやハナミョウガなどが群生していたが、自然観察公園のホタルの里の造成のために、かえって従来の良質な自然は損なわれてしまった。エドヒガンザクラやニガキの大木が生えているのはこの付近で、その先に湧水地がある。
北里研究所メディカルセンター病院北側の現在自然学習センターの駐車場となっている土地は、昭和六十三年(一九八八)までは良質の湿原で各種の動植物が生活していたが、産業廃棄物の埋め立てが行われ、土盛りをされてしまった。そこより約二〇メートル東方の湿地には湧水地が現存する。
景観としては、城ケ谷堤から東方の眺(なが)めが素晴らしい。また、子供公園の先にある木造の橋の上から北方を眺めた景観は、人里はなれた深い自然を連想させる。その先の八重塚の斜面では、ススキが一面に生(お)い茂り、八月下旬には野生のスズムシの鳴く声を聞くことが出来る。この付近の湿原では梅雨の時期にキンヒバリが美しい音色を響かせ、アオヤンマが雄飛する。八重塚の林には今もハルゼミが生息し、カブトムシやノコギリクワガタが多産する。

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