北本市史 通史編 古代・中世

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第4章 鎌倉幕府と北本周辺

第3節 承久の乱と御家人の動向

足立氏庶流(しょりゅう)の西遷
足立氏は、幕府創設にあたり活躍した足立遠元以来、幕府の有力武将として活動していた。『吾妻鏡』や「足立氏系図」などによれば、同氏の惣領職は、足立郡の領有権とともに遠元—遠親と継承され、遠親の子の直元が、弘安(こうあん)八年(一二八五)十一月に起きた「霜月騒動(しもつきそうどう)」に加担し討伐されたのちは、直元の兄弟の基(元)氏系に受けっがれた。

写真30 丹波足立氏系図 兵庫県足立九一郎家文書

(東京大学史料編纂所蔵 埼玉県県史編さん室提供)

足立氏の所領については、遠元が足立郡郷の管错権の領有を認められた以外は不明であるが(古代・中世No.五三)、前述したように「足立氏系図」によれば、(藤カ) ふちえ遠元の子元重の注記に「淵江(藤カ)田内左衛門尉と号す」とある。淵江(ふちえ)は、現在の東京都足立区伊興(いこう)あたりを中心とするところにあたり、系図によればこの所に、元重ー遠清ー元員ー元清ー清氏ー元兼と六代にわたって本拠地としていたとある。この淵江を領有していた足立氏との実質的な関係は不明であるが、応永(おうえい)四年(一三九七)七月二十日付足利氏満寄進状のなかに、足立大炊助(あだちおおいのすけ)跡として淵江(ふちえ)郷石塚村の名がみえており、系図にあるように足立氏と淵江郷とは、何らかの関係があったことがわかる(古代・中世No.一四四・一四五)。
さらに同系図によれば、遠元の子遠景には「安須吉と号す」、同じく遠村には「河田谷と号す」、ついで遠継には「平柳と号す」とそれぞれ注記されている。安須吉は現在の上尾市畔吉(あぜよし)に、河田谷は桶川市川田谷(かわたや)に、平柳(ひらやなぎ)は川口市元郷にそれぞれ比定されることから、遠元期の足立氏は、足立郡内それも旧入間川(荒川)沿いに面した所に根拠地を置いて活動していたらしいことが推測される。
足立氏は、幕府創設以来つねに幕府側として行動して、多くの勲功をあげており、足立郡以外にも所領を所有していたようである。『吾妻鏡』によれば、嘉禎(かてい)二年(一二三六)七月、足立元春の子の遠親は、幕府によりその所領である讃岐国(さぬきのくに)本山庄地頭職をとりあげられている(古代・中世No.九七)。前年三月に起きた石清水(いわしみず)八幡宮と興福寺(こうふくじ)との紛争によるもの、あるいは後述の足立氏庶流足立遠政・遠信父子の日吉社神人(ひえしゃじにん)への刃傷(にんじょう)事件の影響によるものかは不明であるが、前述したように、この所領は承久の乱の恩賞として給与された所領であった(表10参照)。
ついで正応(しょうおう)三年(一二九〇)十月、幕府は宇都宮通房(みちふさ)に足立遠氏の所領豊前国佐田庄地頭職を同国安雲村のかわりとして給与した(古代・中世No.一〇九)。佐田庄を所有していた足立遠氏は、遠政の孫にあたる人物で、当時足立氏の惣領(そうりょう)であったと思われる。この遠氏の孫が建武新政時代に活躍した足立安芸守遠宣(とうのぶ)である。
さらに遠元の孫遠政の注記に、「佐治庄(さじのしょう)を拝領す」とある。丹波国佐治庄は、現在の兵庫県氷上郡青垣町(ひかみぐんあおがきちょう)辺にあった庄園であるが、南北朝時代に大徳寺領として見える以前の領有関係は不明である。遠政が佐治庄を給与されたとするのは「足立氏系図」以外には見えないが、彼の子孫と称する者たちが後年佐治庄を中心に活動していることから、確かなことと思われ、また遠政が遠元の孫にあたることから、遠政が佐治庄を給与されたのは、承久の乱の際の勲功によると思われる。

写真31 丹波国佐治庄 兵庫県氷上郡青垣町 青垣町蔵

(浦和市行政資料室提供)

足立遠政は、御家人として京都で活動しており、嘉禎(かてい)元年(一二三五)七月に起きた日吉社神人との衝突の際の幕府側の当事者の一人としてその名がみえている(『吾妻鏡』文暦(ぶんりゃく)二年七月二十九日条)。結局遠政は事件の首謀者として備後国(広島県)に流罪(るざい)処分となったが(「百錬抄(ひゃくれんしょう)」『新記』『増補国史大系』暦二年八月八日条)、その子の基政(「足立氏系図」では政基とある)が、正応元年(一二ハ八)十月の伏見天皇の大嘗会(だいじょうえ)の際に右馬寮官人を務めていることから(「勘仲記(かんちゅうき)」『増補史料大成』同年十月二十一日条)、遠政らの罪は、流罪後まもなく許されたものの、父遠政に代り子の基政が出仕したものであろう。なお遠政の流罪にともない所領の佐治庄も当然何らかの変化があったと思われるが、足立氏の佐治庄での活動が戦国時代までみられることから、一応基政が佐治庄を継承したと思われる。


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