北本市史 通史編 近世

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第3章 農村の変貌と支配の強化

第3節 村落規制の強化

2 規制の強化

写真21 御条目五人組請印帳

(吉田眞士家蔵)

財政の基盤を農業生産におく江戸幕府は、田畑を耕作し租税を負担する農民は農村に居住することが必要であった。にもかかわらず、農民は江戸時代中期以降年貢納入に詰まり、自分の田畑をやむなく手放し、小作人に転落するか、農村を離れて都市へ流入していった。こうして農村では、次第に土地を集積して大地主へ成長していった少数の農民と、高い小作料を負担して小作地を耕すか、あるいは僅かの自作地と小作地とを耕す小農民へと階層の分化がすすんだ。一方、農村に貨幣経済が浸透して農民生活が奢侈に流れるのを幕府は何とかしてくい止めねばならなかった。そうした幕府の方針が端的に現れているのが幕府の出した法律の類であろう。
先にも取り上げた「五人組帳前書」を再度取り上げてみる。これは前述のとおり五人組制度のなかで生まれたもので、村では毎年五人組の構成員を組ごとに書き上げ五人組帳を作成するが、その前半に農民が順守すべき条項を列挙してある。初期のものは条項も少なく、埼玉郡八条領四条村の五人組帳では三八項目であったのに比べて、幕末に世の中の乱れが増長すると、為政者はより厳しい法律を作って臨むようになる。例えば、天保七年(ー八三六)には、その徹底を図ろうとした幕府代官山本大善が、一四七条にものぼる前書を木版刷りにして村方に与え、その履行を迫っている。それだけ詳細に農民の生活を規制しているわけである。
ここでは、「御条目五人組請印帳」(近世№ーニ)によって、当時の市域の農民がどのような生活上の規制を受けていたかその内容を見ていくことにする。



1 幕府がこれまでに制定したり、今後制定する法律をよく守ること
2 御鷹場に指定されている村々は、御用大切に務めること
3 五人組は最寄りの家五戸でつくったものであるが、お互いに悪事をなさぬよう気を配ること
4 切支丹宗門は禁制なので、不審なものを隠しておいたりしたら五人組のものまできっと罰せられること
5 農作業は念を入れ、不似合いな遊び事はやらぬこと
6 父母・夫婦・兄弟・親類は睦まじく、もし親類等との不和の者や不幸・不義の者へはよく意見をすること
7 前々から通知のとおり捨子をしてはいけない。身寄りのない老人子供は村で世話をし届け出ること
8 鉄砲は取り調べのうえ特別に許された者以外所持してはならず、みだりに他人に貸してはならない
9 人身売買は禁止されており、召使を抱えるときは宗門を改め、確実な証文を取っておくこと
10 捨馬をしてはいけない。どこから来たか所有者不明の牛馬は村で世話をし、急ぎ届け出ること
11 御年貢米を江戸に回送するときは二、三年使った確実な舟を使うこと
12 御年貢米の俵こしらえは名主・組頭立会いで丁寧にやること
13 宿場の御朱印人馬や継人馬はもちろん宿場以外でも御用の役人から要求があったときは、昼夜・風雨に拘わらず遅刻なく人馬を差し出すこと。ただし御用以外は駄賃を取って良い。囚人の護送は大切に務めること
  付旅人には親切にすること
14 押売り押買いをしてはいけない。他所より来た旅人にたいしても無作法をしてはいけない
15 田畑の永代売買や頼み物売買、二重質は禁止されており、よく守ること。質の年季が切れて一〇年過ぎると質流れになるので、それ以前に請返すこと。名主・組頭・五人組の加判をもらい証文を取交わすこと
  付 名主・組頭の加判の無い証文は取り上げない
16 名主の承認印のない証文
17 名主所有の質地は質入れした村の名主か組頭等の役人の承認印のない証文
18 ー〇か年を超えた質地証文
右三か条(一六~一ハ)、永代売買または質入主が年貢諸役を勤めるような質入れは前々から禁止されており、それは五人組帳にもある。しかし、このような証文で訴訟を起す者がいるので、以後村人に五人組帳をよく読み聞かせ忘れぬようにさせること
19 質入れした田畑を請返そうとしても、享保元年(一七一六)以来年季が明けて一〇か年過ぎたなら訴えでても取上げて貰えないことになっている
20 お金の都合が出来しだいいつでも返して貰えると証文にある質地は、質入れの年より一〇か年過ぎると返さない場合訴え出ても取り上げて貰えない
21 これまであった造酒屋のほか、今後は新規造酒屋は認めない
  付 規定の酒造米以上に酒造してはならない
22 火事・喧曄、そのほか何事によらず不慮の事件が起きたなら早速役所へ届けること
  付 火の元は五人組でいつも注意し、村中はもちろん隣村でも出火したなら早速駆付け消火すること
23 前々から荒れ地になっている田畑があったら、地主は元に戻すよう努めること。地主ができないときは百姓仲間が助け合ってやること
  付 田畑に戻せたら隠して置かず早速届け出ること
24 御年貢米を郷蔵に入れているときは番人を付けてしっかり守ること。もし村内に火事が出たときは村人総出で類焼しないように防ぐこと
25 御伝馬宿で出火したときは、早速駆け付け高札を焼かないようにすること
26 旅人にたとへ一夜の宿でも貸すときは名主・五人組へ断ること。やむなく翌日も逗留するときは名主・五人組が立ち会って吟味のうえ泊めること。もっとも怪しい者へは一夜でも貸してはいけない
  付 旅人が落としたものは、何でも追いかけて渡すこと
27 病気とか酒酔いの旅人は、名主・組頭が立会って所持品を調べ、住所・氏名を聞いてから介抱すること回復
したら所持品を返し、重症のときは届け出ること
28 他所から来た手負い人は名主・組頭が立会って介抱し、良く聴いて届け出ること
29 行倒れ人があったときは、名主・組頭が立会って詳細に改め、所持品は封をし、死骸は動かさずに番人を置き早速届け出ること。尤も尋ねて来た人がいたら出身地等を聞き、これも届け出ること
30 他所から逃げてきた者を追手の者が探しに来たとき、お尋ね者のときは村中の者たちがすぐさま集まり、取逃がさないようにしてから届け出ること
31 博奕は一切禁止する。博奕の宿もしてはいけない。もしもこれに違反すれば重罪に処する
  付 日頃人の邪魔をしたり、酒びたり・喧嘩好きあるいは農業や商業の家業をやらない者がいたなら、名主・組頭がよく調べて届け出ること。また用事もないのにやって来る者は五人組で気を付け届け出ること
32 三笠付けの博奕は堅く禁止する。もし怠け者等がやったり、他所からやつて来て博奕の宿を頼んでも一夜も宿を貸してはいけない。このようなことは五人組で気を付け、もしも怪しい様子があったなら早速届け出ること
33 喧嘩・口論があったら、すぐに駆け付けて取押さえておいて届け出ること。もし取逃がしたなら追いかけて行き、行き場所を見届けてから届け出ること
  付 喧嘩・口論を取押さえるとき鉄砲を持ち出してはいけない。またどちらにも加勢してもいけない
34 お堂、お宮、山林等に不審の者がいないか日頃から注意すること。行方不明者はその儘(まま)にしておかないこと
35 村は番小屋を置き、不審な者が来たら大声を立て、もし盗賊が入ったなら村中の者が駆付け捕まえること。ただしむやみに殺してはいけない。甑付けなかったものがいたら、その者は罰せられる
36 新たに寺院や神社を建立してはいけない。また念仏塚や庚甲塚、ならびにその社等も新たに造ってはいけない
  付 住職や神主の交替のときは届出ること
37 神事や祭礼は従来どおりとし、新たな祭礼は禁止する
  付 仏事や供養等は家の格式よりも簡単にすること
38 能・角力(相撲)・操り狂言(人形)・芝居そのほかどのような見世物興業でも禁止する
  付 遊女歌舞伎の類も村に置いてはいけない
39 何事によらず徒党を組んで事に当たってはいけない。総て裁判や訴訟は名主・組頭・五人組がまず立会って解決に努め、それでも解決できないときは申し出ること
  付 物事に希望を失った者、あるいは裁判に興味を持ち訴訟を他人に唆(そそのか)す者がいたなら厳割に処す
40 天領や諸藩において年貢並びに食糧・種籾貸付け等について強訴や徒党を組んで願出たりすることは堅く禁止されているが、近年は天領でもこうしたことが行われ誠に不届きである。今後は取り調べのうえ重罪に処するから、御代官支配の農民は前々から申渡してある触書を良く守ること
41 境界争いがないよう日頃から気を配ること
  付 古い荒れ地や川欠け地、あるいは新開地は隠さず届け、開発可能な土地があれば申し出ること
42 用水の利用については前々からの慣例にしたがって定めておき、渇水のとき争いのないようにすること
43 川沿いの村々は、洪水のとき名主・組頭をはじめ村民総出で堤を築き、堰・溜池等が切れないよう努めること。御普請所は決壊しないよう常に気を付けていること
  付用水・溜池は毎春底浚いをすること
44 公道の道や橋はもちろん脇道でも日頃から修繕をし、人馬通行に差し支えないようにすること
  付 田畑の方にまで食い込まないようにすること
45 川船や渡し舟の運賃は前々からの運貸を守ること
  付 御城米の積み船はもちろん沈没船がでたら近くの者は早速救助し、荷物も盗まれないようにすること
46 幕府の御林はもちろん自分の山林や周囲の竹木をみだりに切らないこと
  付 御林や道路の並木が倒れたときは、取り敢えず交通の邪魔にならないようにして置届け出ること
47 村継ぎの回状は昼夜を問わず先の村に届け確認印を貰って置くこと
48 質入れの品物は良く調べ、確かな証人を立てて受け取ること
49 農民が家を建てるとき資産相応より安めにすること。衣類は名主の妻子であっても木綿以外は着てはいけない
50 常に農民は食糧になるものを蓄えて置き、凶作の年でも払下願いなどしないで済むよう心がけること
51 田畑を他人に讓るときは高ー〇石以下は分けないようにすること。やむを得ない事情があるときは申出ること
52 高二〇石あるいは面積二町歩以下の田畑の持主は、子供や親類等へその田畑を分けて相続してはいけない。
 相続は高一〇石あるいは面積一町歩より小さくてはいけない。僅かの田畑で厄介だという者は作人か奉公人にするのが良い
53 婿・嫁・養子等の縁組は名主・組頭・五人組が立会って良く調べ、後で問題が起きないようにすること
54他所から引つ越して来た者は出身地を良く調べ、確かな証文を取りその旨を届け出ること
  付 村の者でもしばらく他所に居て帰って来たときはその旨届け出ること
55他所へ行って泊まるときは名主・組頭へ申し入れ、五人組へも断って行き、帰ったらその旨届けること
  付 江戸はもちろんどこでも用事が済み次第帰り長居をしては行けない
56 跡継ぎのことは、予め名主・五人組が加判した遺言書を作って置き、死後争いのないようにして置くこと
  付 相続人が居ない者が突然死んだときは名主・五人組?組頭立会いで所持品を調べ届け出ること
57 独り身の者が長い病気で耕作できないときは、五人組で助合って田畑を荒れ地にしないこと
58 訴訟や願い事があるときは五人組へ断り、名主・組頭にお願いすること。農民が名主・組頭の言付けを守らないときは取り調べのうえ処罰する
59 町方や村々へ御用で役人を出張させるとき、賄いについては規定の宿泊料雑費とも渡して置くので、普段の有合わせの物で賄いをし、御馳走は不要である。召使・小者も同様である。またどんな僅かでも米・銭・酒肴・衣類・道具類等の贈物は禁止する。たとえ少しの期間でも金・銀・米・銭は一切借貸しをしてはいけない
  付役人・召使共無理をいう者がいたら早速申し出ること
60 毎年御年貢の割当ての通達があったら、村内の農民はもちろん他村の不在地主にも見せて公平に割当てること。また年貢皆済前に穀物を他所へ売ってはいけない
  付 名主・組頭は年貢・年貢金を受取ったなら手形を出し、二重取りのないようにすること
61 村々で出す幕府の工事人夫賃や手当米などはすぐに配分すること。また年間の村の費用等は必要なとき名主・組頭・年寄・村民が立会い、帳面に記載捺印のうえ間違いの無いよう割り当て二重取りの無いよう注意すること。もし不審なところがあるとき申し出れば、取調べのうえ名主?組頭を処罰する
  付 計算は正確にし、納得のうえで捺印すること。
62 名主が印鑑を替えたときは印影を代官所へ届け、その他の者は名主へ届けること
63 農民はもちろんたとえ大名・旗本であっても、みだりに田畑を寺院に寄付することは、いろいろと不正の元になるので以後簡単に許可しない

以上の条文をよく守ること。もし違反する者がいたら、親類・縁者・名主・組頭まで処罰する。このような長文の五人組の前書が代官から達せられたのに対して、村中の農民は一人残らず承知した旨を表すために五人組ごとに連判し、さらに下石戸上村の名主専助をはじめ藤五郎そのほか七人の組頭が奥書までしている。このときの五人組の組数は一八組、総村民数は九一人であった。

いかに事細かに日常の生活を規制しているか、これらの一条一条をみるとよく理解されよう。そして、前にも紹介した天保七年の山本大膳による「五人組帳前書」は一四七条もあり、その内容はさらに一段と詳細を極めている。

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