北本市史 通史編 近代
第4章 十五年戦争下の村とくらし
第2節 食糧増産と経済の統制
1 食糧増産と供出
国民貯蓄組合石戸村では、昭和十三年に石戸村役場に在勤する者によって、自彊(じきょう)国民貯蓄組合が組織された(近代No.二九四)。この組合は国民貯蓄奨励の趣旨に基づき、非常時財政経済政策に協力し、貯蓄報国の実をあげるため貯蓄を励行することを目的としていた。前年に日中戦争に突入した日本は、これを契機に国家総動員体制への全面移行に着手していた。このような状況のもとで「国民貯蓄奨励ニニ関スル件」が、同年四月に閣議決定された。今後発行されることが予想される巨額な国債の消化や、十分な生産力拡充資金の供給を円滑にするためには、どうしても資本の蓄植が必要であった。また、将来巨額の資金が国内に撒布された場合、一時的に国民所得が消費の増加に向かい、物資の不足や物価の騰貴(とうき)を招く恐れがあり、軍需並びに国民生活に及ぼす悪影響も大きく、その意味において政府は貯蓄を奨励をしたわけである。原則として、従来から行っていた貯蓄のほかに、増加所得の全部をできる限り貯蓄に向けることとし、貯蓄方法は確実なものであるならばいかなる方法でも良いというものであった。
石戸村の自彊国民貯蓄組合は、「規約」が示すとおり、組合員の信用組合貯金を斡旋(あっせん)し、貯蓄心の普及涵養(かんよう)を図ることを旨(むね)としていた。この組合は、組合長一名、理事一名、評議員二名の計四名の役員を置き、組合長は村長、理事は収入役、評議員は組合員から組合長が委嘱するという形をとった。理事・評議員の任期は一年であったが、再選は妨げられなかった。組合員は報酬・俸給の支給日に貯蓄額を支給額より差し引き、組合の名において毎月一円の貯蓄を行い、石戸信用組合に当座貯金をした。組合員は不慮の災害やその他特別な事由により組合長が認めた場合のみ、貯蓄の一時中止または貯蓄額の減額をすることができた。貯金の払い戻しは組合を脱退した時と特別な事由により組合長が認めた揚合以外は許されなかった。特に組合の脱退に関しては、退職又は死亡に限るものとした。
昭和十六年十二月八日に太平洋戦争に突入した日本は、戦局の拡大化にともなう、軍需資金の増大に対応するため、貯蓄奨励を積極的に推し進めた。県では毎年「埼玉県国民貯蓄奨励方策」(『県史通史編六』P九四五)を立て、目標額を設定し、貯蓄の励行をはかっていた。
同十八年七月二日北本宿村常会に、国民貯蓄完遂(かんすい)に関する件が提出されている。それによれば、政府の決定した決戦政策に協力し、米英撃退に突進するには、個人的欲望を一擲(いってき)する必要があるとした。戦力強化のためには、国民貯蓄の増強は、緊要な課題であった。そこで政府は二七〇億円の国民貯蓄を完遂することを決定し、国民はいかなる辛苦も克服して実行邁進(まいしん)しなければならないとされた。北本宿村では、国民貯蓄のうち国民貯蓄組合の貯蓄すべき額を三十一万二〇〇〇円とし、その実現を期した。
埼玉県では総目標額を三億二〇〇〇万円とし、北本宿村では総目標額を一五五万五〇〇〇円に設定した。その内訳は、金銭貯蓄保険年金が一〇〇万三〇〇〇円、国債消化額が八万九〇〇〇円、債券消化額が六万円、その他が九万一〇〇〇円、国民貯蓄組合貯蓄額が三十一万二〇〇〇円であった。
昭和十八年度北本宿村国民貯蓄実行計画は、表68のとおりである。
表68 昭和十八年度北本宿村国民貯蓄実行計画
農林産物販売金
種 別 | 数 量 | 貯 蓄 標 | 貯 蓄 目 標 額 |
---|---|---|---|
米 | 九、〇〇〇俵 | 一俵につき五円 | 四五、〇〇〇円 |
大麦 | 一五、二〇〇俵 | 二円五銭 | 三八、〇〇〇円 |
小麦 | 九、五〇〇俵 | 三円 | 二八、五〇〇円 |
甘藷 | 八〇、〇〇〇俵 | 八〇銭 | 六四、〇〇〇円 |
馬鈴薯 | 七、〇〇〇俵 | 一円 | 七、〇〇〇円 |
蚕豆 | 一、〇〇〇俵 | 三円 | 三、〇〇〇田 |
里芋 | 三、〇〇〇俵 | 一円五〇銭 | 四、五〇〇円 |
上繭 | 二五、〇〇〇貫 | 一〆匁につき二円五〇銭 | 六二、五〇〇円 |
中繭 | 三、〇〇〇貫 | 二円 | 六、〇〇〇円 |
鶏卵 | 四、〇〇〇貫 | 五〇銭 | 二、〇〇〇円 |
用材 | 五〇〇石 | 一石につき三円 | 一、五〇〇円 |
薪 | 二九、〇〇〇把 | 一把につき 五銭 | 一、四五〇円 |
蔬菜果樹其他 前記以外農産物 | 販売金 五〇、〇〇〇 | 販売金の二割五分 | 一ニ、五〇〇円 |
花類及び盆栽等 | 販売金 四〇、〇〇〇 | 販売金の二割五分 | 一〇、〇〇〇円 |
畑 | 七〇〇町歩 | 一反につき 五円 | 三五、〇〇〇円 |
月額五〇円未満の者 | 一五〇人 | ーヶ月平均二円宛 (月額四〇円平均として月収の五分) | 三、六〇〇円 |
月額五〇円以上一〇〇円未満の者 | 四五〇人 | ーヶ月平均七円宛 (月額七〇円平均として月収の一割) | 三七、八〇〇円 |
月額一〇〇円以上二〇〇円未満の者 | 一五三人 | 一ヶ月平均一〇円宛 (月額一〇〇円平均として月収の一割) | 一八、三六〇円 |
一年の総収入 | 三九、〇〇〇円 | 一年収の二割 | 七、八〇〇円 |
収益一カ年千円未満の者 | 四〇人 | 平均八〇〇円として年収の一割 | 三、二〇〇円- |
収益一カ年千円以上の者 一 | 五三人 | 平均二、〇〇〇円として年収の二割 | 一二、ニ〇〇円 |
月額五〇円未満の者 | 三〇人 | 一ヶ月平均四円宛 (月額四〇円平均として月収の五分) | 一、四四〇円 |
月額五〇円以上の一〇〇円未満の者者 | 三〇人 | 一ヶ月平均一〇円宛 (月額七〇円平均として月収の一割五分) | 三、六〇〇円 |
月額一〇〇円以上の二〇〇円未満の者者 | 一〇人 | 一ヶ月平均二〇円宛 (月額一〇〇円平均として月収の二割) | 二、四〇〇円 |
年収五〇〇円未満の者 | 九〇人 | 一ヶ月平均三〇円宛 (年収三〇〇円平均として年収の一割) | 二、七〇〇円 |
年収五〇〇円以上の一、〇〇〇円未満の者 | 五〇人 | 一ヶ月平均九〇円宛 (年収六〇〇円平均として月収の一割五分) | 四、五〇〇円 |
小作地の対する控除
小作地 | 七〇〇町歩 | 一反歩につき八円 | 五六、〇〇〇円 |
満一五歳未満の者 | 三、三〇〇人 | 一人につき年額一五円 | 四九、五〇〇円 |
満六五歳以上の者 | 五二〇人 | 一人につき年額一五円 | 七、八〇〇円 |
俸給生活者の妻 | 一五〇人 | 一人につき年額一五円 | 二、二五〇円 |