北本市史 通史編 近代

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第4章 十五年戦争下の村とくらし

第4節 十五年戦争下の生活と文化

4 戦時体制の強化

銃後の生活
昭和十二年七月七日、北京郊外で起こった蘆溝橋(ろこうきょう)事件をきっかけに、日中全面戦争が勃発(ぼっぱつ)した。これを契機に国民を戦争に動員するために行われた官製の「国民運動」が、同年八月以降展開された国民精神総動員運動であった。「銃後(じゅうご)」という言葉もこの運動の開始とともにしばしば用いられるようになった。それは戦争で直接闘う最前線に対して、戦場の後方、また直接戦闘に加わらないで後方にあって支援するもの、すなわち、日中戦争を闘っている際の国民生活一般をさした。以後八月からは、映画の始めに「挙国一致」「銃後を護れ」などのスローガンの挿入(そうにゅう)が義務づけられるようになった。
埼玉県では同年十月九日、精動埼玉地方実行委員会で、「国民精神総動員埼玉県実行計画」が決定された(第四章第一節参照)。この中で「日本精神ノ発揚」「社会風潮ノ一新」といった精神教化のほかに、「銃後ノ後援ノ強化持続」「非常時経済政策へノ協力」「資源ノ愛護」が必要であると説かれていた。
各市町村では、市町村精動連盟が組織され、在郷軍人会、青年団、婦人会等の各種団体が市町村長の指導のもとに総動員させられた。さらにまた、町内会、部落会、隣保班(りんぽはん)、隣組が整備され、精動運動の末端を担っていった。
この精神教化運動として最初に行われたのが、十月十三日から十九日にかけての第一回国民精神強化週間であり、市域においても取り組みがみられた(近代№二四四)。そこでは、勅語の捧読(ほうどく)、慰霊・祈願及び遺烈(いれつ)の顕彰、生活支援の徹底、前線将兵・傷病軍人・遺族及び家族に対する慰安等が実施要項として取りあげられた。

写真160 出征兵士の見送り

昭和15年ころか 北本(横田善一朗家提供)

中国大陸では日本軍は十二月に国民政府の首都南京(なんきん)を占領し、翌十三年十月には武漢(ぶかん)を攻略し、中国の主な都市・鉄道を占領下においた。こうした戦線の急激な拡大によって次々と兵士が招集された。石戸村でも、日中戦争の始まった十日後の七月十九日には「出征兵士武運長久祈願祭」が石戸宿天神社と高尾氷川社でとり行われ、吉田廣吉、矢部惣時の二名が氏神に武運長久を祈り出征していった。また、八月十七日には石戸小学校講堂において、福島佐市・野口徳芳・新井信作・加藤巳之助・鈴木正一の五名の出征兵士に対する武運長久祈願祭がとり行われ、在郷軍人会、男女青年団、農会、教育会、消防組員の多数が出席した(石戸村 三八)。
当時出征する兵士は、腹にまいて出征すると敵弾もさけられると信じられた千人針の布をいだき、また「死線を越える」というまじないに「五銭」の硬貨をぬいつけてある千人針を持って戦地に赴(おもむ)いた。
戦線が中国大陸に拡大してゆくにしたがって「千人針」の甲斐(かい)なく「英霊」として迎えられる兵士の数も次第に増加していった。昭和十三年三月二十八日には、村の精動連盟を構成する消防組、農会、青年団、愛国婦人会分会、国防婦人会分会らによって歩兵曹長高松正樹、騎兵軍曹矢部基次、歩兵上等兵斉藤一司の三名の村葬が執(と)り行われた。さらに翌十四年十二月十日には、八月のノモンハン事件で戦死した陸軍上等兵大島源作の英霊拝迎式が北本宿駅頭においてとり行われた。
戦争の進展に従って、ガソリンを初めとする石油類・鉄・銅を中心とする金属は重要な軍需物資として軍事優先にむけられた。このため民需への割当も次第に苦しくなり、ガソリンの不足はトラック・バス・タクシー等の運輸機関に打撃を与え、物資流通を阻害する大きな原因となった。こうした物資の不足に対し、同十六年には生活必需物資統制令が公布され、マッチ・せっけん・タバコ・食塩・味噌・しょう油などの調味料から子供向の菓子に至るまで切符による配給が実施された。昭和十七年からは全国で衣料切符が発行された。同年五月にはお寺のつり鐘にも召集が来た。「金属回収令」による強制譲渡命令が発動したのである。一般家庭にもぜひとも供出して欲しいものとして、塀(へい)、柵(さく)、門柱、広告塔、溝の蓋(ふた)、手摺(てすり)及び欄干(らんかん)、水桶。次になるべく供出して欲しいものとして、看板、格子(こうし)、ネームプレートその他の表札類、物干、床下の換気孔金物、梁立、洗面器台、屑入、焜炉(こんろ)、火鉢、千歯こきなどがあげられた。深井の寿命院でも、梵鐘(ぼんしょう)が鐘楼(しょうろう)からおろされ、「祝応召」の幟(のぼり)を立てて牛車で運ばれていった。

写真161 牛車を使った梵鐘供出

昭和18年ころ 深井(寿命院提供)

写真162 鐘楼から降ろされる鐘

昭和18年ころ 深井(寿命院提供)


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