北本市史 通史編 現代

全般 >> 北本市史 >> 通史編 >> 現代

第1章 戦後復興期の北本

第3節 食糧増産時代の北本

8 室とさつまいも

室の条件と構造
冬季にさつまいもを貯蔵するためには、次の諸条件を備えた室でなくてはいけない。さつまいもを貯蔵する条件は、さつまいも自身のもつ性質に規定される。前述のように、さつまいもはもともと熱帯を原産地とするため寒さに弱く、気温が十度以下の場合や直接霜にあたると腐りやすい。逆に二十度以上の高温になると発芽してしまう。そのため、さつまいもの貯蔵温度は十ニ~十三度位が良いとされている。また乾燥すると水分を失うため八十パーセント以上の湿度も必要とされている。このため、さつまいもを貯蔵するには適切な温度・湿度管理のできる施設が必要となる。これらの諸条件を兼ね備えたのが室(むろ)と呼ばれ、これは大地に穴蔵を掘ったもので昔から、さつまいも貯蔵庫として利用されてきた。
市内にある室の事例を示そう。石戸宿の横田善一郎家(付図No.93)の宅地内にある室は図4のごとくである。室は荒川に接する崖線(がいせん)近くの関東ーム台地上に位置する。さつまいも貯蔵を目的とした室で、昭和十九年に関東口—ムを掘ってつくられた。その断面はL字構造で、床面の深さは地表からニ.三メートル、入口 (開口部)に相当するたて穴と貯蔵空間の横穴部分からなる。横穴は東向きで、その奥行は三.五メートルであった。たて穴部分の容積は一.五立方メートル、横穴部分の容積は二.八立方メートルで、合計四.三立方メートルの容積となる。

図4 室の構造 石戸宿 横田善一郎家

図5 室の構造 荒井 新井康夫家


同じく関東ローム台地上の標高三十メートルにある荒井の新井康夫家(付図No.76)の室を図5に示した。室の床面の深さは三.四五メートルで、横穴は東・西・南・北四方向に伸びている。ただし西方向は、途中で掘削(くっさく)を中止している。地質は、先の横田家と同様に床面も含めて関東ロームから構成されていた。横穴の貯蔵部分容積合計は十五立方メートル、たて穴部分容積一.六立方メートル、合計容積は十六.六立方メートルとなる。この室は大正から昭和期にかけて掘られたという。なお、東側と北側の横穴の先端部に空気穴が設けられている。さつまいもは常時呼吸を行っており、二酸化炭素を排出している。二酸化炭素は酸素より重いため、室内は酸欠状態になりやすい。そのため大きな室は、開口部と反対側に空気穴を設け、空気の循環(じゅんかん)を促している。
両地点の室とも、関東ローム層を掘ってつくられているがたて方向の壁面は垂直で、横穴の天井はアーチ状をしていた。補強する材木などを使用していない点も共通しており、関東ローム層そのものの穴蔵といってよいだろう。また室の地上に接する開口部分も、関東ロ —ムの地肌のままで特に補強していない。開口部の「ふた」もきちんとしたものでなく使い古した雨戸やトタンなどのありふれた材料を使用していた。

<< 前のページに戻る