北本市史 通史編 現代

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第2章 都市化から安定成長へ

第3節 都市化の進展と農業の変貌

1 高度経済成長と農業の近代化

農業近代化資金の導入と新しい展業の模索

写真49 農業近代化事業の対象部門のひとつ花卉温室

平成3年 石戸宿

前項で述べたように高度経済成長政策の推進に伴う農・工間と都市・農村間の所得較差(かくさ)の増大を解消するため、昭和三十六年六月に農業基本法が制定された。その狙いは畜産・野菜・果樹の三部門を中心とする選択的拡大生産であり、そのための具体的方法として、地域を対象に農業構造改善事業が発足し、また個別農家を対象に農業近代化資金助成法(昭和三十六年)が制定された。
北本でも三か所で農業構造改善事業を進める一方、昭和三十六年度から自立経営志向農家を主体に制度資金、とくに近代化資金の導入アピールと利用者への利子補給に取り組んだ(現代No.八十四・八十六)。農業近代化資金は市中金利のほぼ半分の金利で融資が受けられ、これに国・県・市町村の利子補給が加わわると最終的に元金返済だけとなるため、いろいろの意味で、その後の農家と農業に大きな影響を与えることになった。
農業近代化資金の用途と借入状況は、それぞれの市町村の農業の行方を占う目安になるという考え方から、北本の場合について検討してみた。近代化資金の利用が始められた昭和三十六年度では、融資総額一五八二万円のうち、温室(八〇八万円)、養鶏(三五二万円)、養豚(二四四万円)が主で、これに牛舎、果樹棚が続いていた。農産物需要の高度化に対応して、北本の農業は施設園芸・畜産を中心に果樹を加えた全方位対応を示し、特定部門に集中する傾向はみられなかった。ただし、内部的には養鶏の中丸、養豚の石戸という地域性はみられた。それにしても、導入資金のすべてが直接的な生産施設に投入されていたことは、この時期の目立った特徴であり、そこには北本農業の将来を模索する真剣な雰囲気が漂っていた。
表32 近代化施設別年度別件数

近代化施設
件 数
50年度60年度
トラクター117
コンバイン67
乾 燥 機19
トレンチャー1
耕 耘 機2
農用自勤車7
選 果 機1
養 魚 施 設2
農業用建物12
冷 蔵 庫2
ブドウ棚1
特殊温室2
温  室33
灌漑(かんがい)施設9
乳  牛1
種  豚1
尿固液分離機1

(北本市資料より作成)

なお、近代化資金を導入する農家は施設園芸、畜産農家を除いて一般に経営農用地規模が大きく、昭和五十年度では市域農家平均の二倍にあたる平均一六五アール、また六十年度は一四六アールであった。ちなみに北本全体の導入資金規模は年々上昇し、昭和三十六年度が一五八二万円、五十年度が四〇〇九万円、六十年度は九〇一七万円と大台寸前に達している。
昭和四十八年度後半以降、産業界はいわゆる安定経済成長期を迎える。このころ(昭和五十年)になると農業近代化資金の用途も大きく変化し、労働力不足に対応したトラクター、コンバイン等の農業機械の導入が三十五件中のニ十一件と過半数を占め、生産施設的なものは四十パーセントに後退した。この傾向はとくに旧中丸地区で目立っていた。こうした中で旧石戸の全域にわたってみられた灌漑(かんがい)施設の整備による減反政策下での陸田水稲作の展開は、展望を見失った首都近郊台地畑作の在り方を示唆(しさ)するものとして、周囲の注目を集めた。
昭和六十年度になると、労働節約的な農業機械の比重はさらに高まり、総件数(四十五件)の六十七パーセントにまで達する。しかもこれらの農業機械は米作用のコンバイン、乾燥機、耕起用トラクターが主体であり、これらを導入した農家の大部分が「本人農外就業」、又は「本人老齢化・後継者農外就業」であった。以上の二点から近年の農業近代化資金効果は、当初の選択的拡大部門の採用とこれによる所得向上から大幅にズレて、労働力不足を補完し、農外所得の増大によって他産業従事者なみの所得水準・家計水準を実現するという方向で役立っていたといえる。また、農業機械の導入農家では米麦作プラス露地(ろじ)野菜生産が多く、この部門の省力化によって生み出した余剰労働力を集約的な畜産・果樹・施設園芸などに投入しようとする姿勢はみられなかった。
近代化資金の用途については旧石戸・旧中丸地区とも、格別大きなちがいは生じていない。しかし年を追って、近代化資金を利用する農家の割り合いだけは石戸で多くなっている。反面、中丸では、五十年度の上手(うわで)機械化利用集団(トラクター)、北本桃出荷組合(トレンチャー)、六十年度の朝日野菜生産組合(トラクター)、中丸農耕組合(コンバイン)、北本観賞魚共同出荷組合(養魚施設)にみられるように、農業法人による近代化施設の導入がめだち、近代化資金利用をテコにした農業生産組織の活動が活発化していた。
表33 北本市の農業近代化施設等導入の状況
 項  目 項  目
宮  内トラクター(1)高  尾乾燥機(3) トラクター(2) 農用自動車(2) コンバイン(1) 尿固液分離機(1)
深  井農用自動車(1)石 戸 宿乾燥機(2) 作業場(1) コンバイン(1) 農用自動車(2) トラクター(1)
北 中 丸コンバイン(1)下石戸上温室(1) 農用自動車(1) 乾燥機(2)
中  丸特殊温室(1) コンバイン(2) 乾燥機(1)下石戸下コンバイン(1) 温室(1) 農機具置場(1) 特殊温室(1) 冷蔵庫(1)
コンバイン(1) ブレハブ 冷蔵庫(1)荒  井ブドウ棚(1)  乾燥機(1)
朝  日養魚施設(2) 農用自動車(1) トラクター(1)中  央トラクター(1)
本  宿特殊温室(1)
小計 14農業機械(9) 園芸施設(3) 養魚施設(2)小計 28農業機械(20) 園芸施設(4) 畜産施設(1) 果樹施設(1)  農業用建物(2)

(北本市資料より作成)


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