北本市史 資料編 自然

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第1章 北本の地形

第1節 台地の発達と硬砂層(河畔砂丘)

関東平野の中央部には、吹上・鴻巣をほぼ北端にして北本・桶川・上尾・大宮・浦和・鳩ケ谷・蓮田・岩槻に至る南北およそ三五キロメートル、東西約一五キロメートルに及ぶ紡錘状の大宮台地が発達している。
北本市域の大部分は、大宮台地北西端部の台地に位置し、なかでも、北本西部の高尾・荒井付近は大宮台地の最高所にあたっている。高尾・荒井付近の海抜三二メートルを頂点とする大宮台地は、ここから北東・南東・東の方向に緩やかに高度を下げ、北本北東部の深井・東側の古市場付近で加須低地下に埋没する。
北本の台地のほとんどは下末吉面に対比されているが、加須低地下に潜り込む市域北東部や東側の狭い台地面一帯は、高尾や荒井の高い台地面とは明らかに不連続につながり(図10)、桶川以南の大宮台地と同様、武蔵野面に対比される。両者の形成時期には一万年程度の差違があることが指摘されている。

図10 北本の地質推定断面図

図8 北本市深井戸柱状図―1(7~11は図2の地点を示す)

図9 北本市深井戸柱状図―2(11~14は図2の地点を示す)

高尾・北袋付近のローム台地の地下を詳細に観察すると、極めて堅硬で緻密な中・細砂が場所による層厚の変化を伴って堆積していることがわかる。この砂層は硬砂層(かたずなそう)と呼ばれるもので、硬砂団体研究グループ(一九八四)によって綿密に調査され鴻巣市馬室地区・北本市高尾付近をほぼ北限として桶川市川田谷・上尾市藤波・大宮市指扇・久喜・岩槻等の大宮台地各地に広く分布することが予測されている。次に荒川左岸の北本の台地の露頭に見られるローム層、硬砂層やパミス(火山から噴出した多孔質の軽石)等の堆積状況を述べ、その後で、地質推定断面図(図10)と深井戸柱状図(図8・9)を併せ北本の台地の形成過程を推論する(露頭位置・深井戸地点・ボーリング調査地点等は図2に示す)。

図2 地形・地質調査地点位置図

●台地の露頭調査地点(数字は本文中の図番号を示す)
○地質推定断面図作成位置(図10)
△深井戸柱状図位置(図8・9)
ⓐ~ⓝ開析谷のハンドオーガーボーリング調査地点(図11№1~31) ⓐ…28、29 ⓑ…26、27 ⓒ…24、25 ⓓ…22、23 ⓔ…19、20、21 ⓕ…16、17、18 ⓖ…12、14、15 ⓗ…10、11、13 ⓘ…8、9 ⓙ…3、31 ⓚ…7、30 ⓛ…6 ⓜ…4、5 ⓜ…1、2 (数字は本文中の図番号を示す)

北袋付近の露頭では(図3)、最下部に灰白色粘土質層が堆積し、これに続いて一メートル程の厚さの黄褐色砂が覆い、更にその上部にはパミスをレンズ状にはさんだ明灰色の中砂が載り、この砂層の中央部には、水流の作用を推測させるクロスラミナ(地層の層理面と斜交する堆積物の構成粒子の配列が示す葉片状の構造をいい、その形成時における水流の方向を復元するのに役立つ)が認められる。

図3 北袋付近の台地の露頭

明灰色中砂を覆うヌカ砂層(古い時代の河川が堆積した赤褐色火山灰質シルト質砂層)は、草木の根茎や毛根跡が明瞭に残り、三~四枚の極薄層のパミスやローム層を連続的、またはパッチ状にはさんで堆積し、その下部には鉄分がよく集積している。ヌカ砂層をおおうのが灰白青色の硬砂層であり、この硬砂層は強力に固結していてハンマーやスコップでも削り取ることはなかなか容易でない。
硬砂層の直下には、クリヨウカン軽石kup(横浜市三ッ池付近のローム層中に点在したり、千葉県松戸市付近の台地下のローム層中に堆積する降下軽石で、下末吉ローム上部層に対比される。七万年前より新しく、六万年前より古いとされる)と呼ばれるオレンジ色の軽石が一~二センチの厚さで連続し、硬砂層の上位には暗褐色の割れ目の著しいローム層(クラック帯)に代表される下末吉ローム上部層と、東京軽石(TP)が鍵層(約四万九〇〇〇年前に箱根火山より出噴し、武蔵野台地や大宮台地に降下堆積した軽石)として存在する武蔵野ロー厶層、更に立川ローム層と極薄層の大里ローム層が堆積している。
荒井付近の台地下(図4)には、最下部の砂・シルト互層中にレンズ状の軽石(パミス)が混在し、硬砂層の下位に層厚三センチ程度の厚さでオレンジ色のクリヨウカン軽石がほぼ水平に堆積する。また、硬砂層の上部には、水つきで黒褐色の下末吉ロー厶層と東京軽石(TP)をレンズ状に包含した武蔵野ローム層が確認できる。両ローム層の境界付近は波状を呈することから、下末吉ローム上部層堆積後に一時的な侵食が行われ、時間的な不連続(不整合関係)があったことが推定できる。

図4 荒井付近の台地の露頭

図5の中井付近では、最下層の青灰色粘土層と、中位の青灰色粘土層にはさまれて砂層・シルト質層が約四メートル堆積し、中位の青灰色粘土層直上には鉄・マンガンの集積を見ることができる。続く上部にはシルト質ローム層がレンズ状の砂層を包みこんで堆積し、台地表面に至近のローム層下部には粒度の均一な硬砂層が、最大〇・六メートル程の厚さでクサビ状に堆積するのが認められる。

図5 中井付近の台地の露頭

この硬砂層は、荒川の流路と卓越風の風上側に薄く、風下側に厚く堆積し、冬季の北西卓越風によって砂が吹き上り堆積して形成された小規模な河畔砂丘の可能性を示唆している。
城山付近(図6)では、最下部の青灰色粘土層を覆ってラミナの発達するヌカ砂層が堆積し、更にヌカ砂層上部にはおよそ四メートルの厚さでローム層が堆積する。このローム層は、灰青色のクラック帯と、レンズ状に存在する東京軽石(TP)を包含し、クラック帯直上には鉄、マンガンの集積を見ることができる。

図6 桜堤(城山)付近の台地の露頭

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