北本市史 資料編 自然

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第5章 北本の水

第2節 地下水

1 地下水の存在状況

被圧地下水
被圧地下水は砂礫~礫層部分に帯水するが、その上下を粘土層などの不透水性地層によって制限されているために、圧力の高い方から低い方へ移動して、不圧地下水のように地表の形態(地形)には直接支配されない。むしろ地層や地質構造、さらに透水性に大きく左右されて存在している。また、被圧地下水の変動は降水などの水文条件にも関係するが、人為的な地下水の揚水に対応してみられる場合が多い。したがって、北本市域における被圧地下水の存在状況をみていく際には、より広域的で、かつ深層の堆積構造まで加えて、巨視的に把えることが必要になる。
図16、図17、図18などは、北本市とその周辺地域における被圧地下水の圧力水頭分布をえがいたものである。各図とも研究目的が若干ちがうため、圧力水頭分布に差異が認められるものの、深層部で圧力を受けた地下水の挙動は充分理解できる資料である。これらの図にみられるように、圧力の高い方から低い方向へ被圧地下水の流動・流向状況の傾向が読み取れる。

図16 被圧地下水(第2帯水層)の圧力水頭(面)分布

(木野義人、1970年より作成)
この図は、関東平野中央部の大宮台地・中川低地などにおける被圧地下水の圧力水頭分布を示したものである。関東平野中央部における被圧地下水の帯水層は、主として成田層群相当層中にあるが、工業技術院地質調査所が調査した資料によると、春日部において水理地質的な層序区分を行なった結果、第1から第4までの帯水層(群)に区分できる。第1帯水層と第2帯水層との間には、厚さ40m前後の厚い泥質層があり、関東平野中央部一带によく連続し、両帯水層の地下水を区分している。
この図には、1958(昭和33)年と1961(昭和36)年当時における第2带水層の圧力水頭面の状態がそれぞれ示されている。両年時を通じて圧力水頭面の凹部は江戸川と荒川との中間を北北西〜南南東方向に伸びて、羽生付近から奥では西北西〜東南東方向に伸びている。これらの低いポテンシャルに対して、高いポテンシャルを有する地域は武蔵野台地、利根川北岸および熊谷以西などにあるが、その勾配は東京の城北・江東地区と武蔵野台地との間において最大を示している。
1958年と1961年の両年時における圧力水頭分布を比較すると、この3年間に北半部の地域では一様に2〜3mの低下を示しているが、南部では低下量が大きく、越谷・草加地区で5〜9m、川口・浦和地区ではさらに大きくて10m以上に及んでいる。このため、川口付近から荒川沿いおよび武蔵野台地東縁部にかけては、この間における圧力水頭面勾配の増大が顕著である。また、荒川沿いには新たに局地的な圧力面の谷が形成されている。
このような圧力水頭面形態の変形(低下)は、東京の城北・江東地区における極度の圧力面低下によるところが大きく、それは井戸群による被圧地下水の大量排出(揚水)によって起こっている。こうした現象は、北部より南部地域において顕著に現われている。
これらの局部的な変形方向を逆に辿って乱れのない状態を想定すれば、井戸群による排出以前の原初状態における圧力水頭面形態が図中に示すように概念的に復元することができる。

図17 被圧地下水の立つ綠水頭分布(1970)

(『日本地下水』地球社、1986年による)

図18 被圧地下水の立つ綠水頭分布(1980年代)

『荒川』自然編 埼玉県、1987年より作成
図17と図18は大宮台地、中川低地などの地域における最近の被圧地下水圧力水頭分布の経年変化(1973~1985年)を示したものである。これらの図も図16と同様に、地下水の巨視的な流動・流向をこの圧力水頭分布の等高線にしたがうことによって、その経年的な変動状況が理解できる。
1973年には、埼玉県南部の草加市を中心にー50mの等高線があったが、1976年にはー30mの等高線にかわり、都市部における地下水採水規制の効果が明確になってきたことを示している。しかし、1978年になると一30mおよび一20mの等高線が上流部へ拡大するようになり、北本市付近でも若干の圧力水頭低下が認められ、都市化の程度をそのまま反映して地下水利用が内陸部へ進行してきた状況が把握できる。

北本市域の地下に存在する被圧地下水は、市の北西~西方向から流れて、南東方向の中川低地に沿って南下している。被圧地下水の圧力水頭面の等値線は時系列的に概観すると、圧力水頭の低下は年々北方向へ移動していることがわかる。これは人為的な地下水利用に伴って、その揚水量に大きく影響された結果である。
次に被圧地下水の水温・水質状況について、桶川北本水道企業団の水源井の分析結果からみると表3に示す如くである。これらの結果は、地中に存在する何枚かの砂礫層(帯水層) にストレーナー(採水するための管口)が切られていて、そうした複数の帯水層からの被圧地下水の混合したものの総和として表わされた水質を示している。したがって、一枚一枚の帯水層に存在する被圧地下水の水質を表現したものではない。
表3 桶川北本水道企業団各取水井の原水水質 1988年6月27日採水
浄水場
井戸番号
ストレーナーの位置水 温
T.W.(℃) 
水素イオン濃度
pH
カルシウム・マグネシウム等(硬度)Ca、Ma
(mg/ℓ)
塩素イオンC1
(mg/ℓ) 
鉄Fe
(mg/ℓ) 
アンモニア態窒素NH4-N
(mg/ℓ) 
過マンガン酸カリ消費量
KMnO4消費量
(mg/ℓ)
蒸発残留物
(mg/ℓ) 
上 限m 下 限m 
石戸124~ ~242 19.0 7.8 56.6 4.7 0.17 0.94 8.0 198 
150~ ~194 19.5 7.6 44.7 4.6 1.26 0.59 7.6 210 
138~ ~232 21.0 7.7 45.7 3.1 0.23 0.87 5.9 195 
154~ ~284 22.0 7.7 52.2 6.7 0.25 0.71 4.6 199 
150~ ~266 23.0 7.7 49.8 3.5 0.15 0.81 5.1 188 
15 153~ ~305 22.0 7.7 44.9 2.7 0.12 0.78 4.6 186 
中丸 200~ ~291 21.0 7.8 84.3 47.7 0.28 0.77 4.9 289 
205~ ~296 21.0 7.8 83.7 64.5 0.15 0.71 3.4 315 
150~ ~289 19.0 8.0 94.5 39.4 0.24 1.60 5.1 258 
11 223~ ~311 21.5 8.0 86.6 68.4 0.24 0.61 3.6 310 
13 168~ ~291 21.0 7.8 57.8 11.6 0.19 0.87 6.7 213 
14 161~ ~293 19.5 7.7 48.7 5.8 0.16 0.64 5.0 197 
川田谷 16 154~ ~262 21.0 7.8 64.3 2.6 0.39 1.29 9.7 223 
17 134~ ~288 21.0 7.7 63.52.9 0.64 0.99 9.9 222 

(桶川北本水道企業団資料より作成) 

これらによると、ストレーナーの位置は上限一ニ四メートル、下限三一一メートルで、この間にある砂礫層を中心に複数の帯水層中から採水している。被圧地下水の水温は一九~二三度Cの範囲にあり、不圧地下水のそれより数度C程度髙いことが認められる。水素イオン濃度は七.六~八.〇のアルカリ性を示しており、不圧地下水の微酸性とは異なる値を示している。
蒸発残留物は大略二〇〇mg/ℓ前後の値を示し、一部には三〇〇mg/ℓ以上の高い値にあり、かなりの溶解物質を含んでいることを示している。これはカルシウム・マグネシウム (Ca・Mg)が四五mg/ℓ以上となって硬度を高くしていることにもあらわれている。塩素イオン濃度(CI)は石戸浄水場関係の水源井で低く (七mg/ℓ以下)、中丸浄水場関係のそれで高い(七〇mg/ℓ以下)傾向が示され、これと類似した傾向はカルシウム・ナトリウムの硬度にも認められる。アンモニア態窒素(NH₄—N) は〇.六~一.六の範囲にあり、過マンガン酸カリ(KMnO₄)消費量は一〇mg/ℓ以下、鉄(Fe)は〇.一~一.三mg/ℓの範囲にある。
こうした被圧地下水の水質状況から特筆できることは、中丸浄水場関係の水源井(JR線東側)で比較的深い帯水層から揚水している場合では、カルシウム・ナトリウムと塩素イオンの含有量が高い値にある。これは成田層群およびその相当層の海成堆積物中に塩分濃度の高い水が閉じ込められ、その後淡水により希釈されているものの、いわゆる化石水(塩水)となった地下水の一部を採水した可能性が予想される(淡水は塩素イオン含有最が一〇mg/ℓ以下)。

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