北本市史 資料編 原始

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第2章 遺跡の概要

第1節 荒川沿岸の遺跡

阿弥陀堂遺跡 (大字高尾字大宮)
遺跡は、荒川を見下ろす台地上に位置する。北側と南側に小さな谷が入り、西方に向かって突出した舌状台地との全域である。標高は三四・一メートル。荒川の沖積地の比高差は十六・六メートルである。北と南の小支谷も小さいけれど比高差は大きく、三方とも急崖をなしている。ほぼ中央に阿弥陀堂と墓地があり、遺跡の主要部は破壊されているであろう。以前より墓地の南端に凝灰岩(ぎょうかいがん)塊があり、石室材との認識から古墳の存在を予測していた。昭和五十五年頃、西側に新たな墓域が造成され、埴輪片と多数の凝灰岩小塊、中世の板碑等が出土した。凝灰岩小塊の量からして、そう離れた地点に石室があったものではない。少なくとも一基は台地先端部に所在したことが明確である。凝灰岩は粒子の細かい淡い青緑色を呈した砂質凝灰岩である。採集遺物は縄文土器片、古墳時代の土師器片、平安時代の土師器小片、須恵器片もあり、古墳だけではなく、それぞれの時代の集落とも複合しているのであろう。

図36 阿弥陀堂遺跡位置図

図37 阿弥陀堂遺跡出土遺物拓影図(1)

図38 阿弥陀堂遺跡出土遺物拓影図(2)

図39 阿弥陀堂遺跡出土遺物拓影図(3)

縄文土器 図37の1は茅山下層式。色調は淡赤褐色を呈している。胎土に繊維と微細な砂粒を含んでいる。表裏に条痕文を施している。
3は関山式。色調は淡赤褐色を呈している。胎土に繊維・砂粒を含んでいる。貝殻背圧痕文(かいがらはいあっこんもん)が施されている。
2・4・5は諸磯式。2は淡黄褐色を呈している。胎土に多量の砂粒を含んでいる。器面には単節縄文が施されている。4は黒褐色を呈している。粘土紐を貼り付けえた浮線文で、浮線文の上に単節縄文を施している。5の色調は淡黄褐色を呈している。胎土に砂粒を含んでいる。焼成、器面整形ともよく、しっかりした土器片である。単節縄文を施した後、半截(はんさい)竹管で小葉形に囲み、外部を磨り消している。2・5は諸磯a式、4は諸磯b式である。
6は五領ケ台(ごりょうがだい)式。甕の頸部片である。色調は褐色を呈している。胎土に砂粒、石英粒、金雲母を多量に含んでいる。頸部に半截竹管による管内痕を残した沈線をめぐらし、同一施文具で下に弧を描く沈線を入れている。頸部より上は、太目の沈線と沈刻を施している。
7〜11は加曽利(かそり)E式。色調は7・8が赤褐色、9〜11が淡黄褐色を呈している。7〜10は地文に単節縄文を施し、隆帯と沈線の懸垂文を入れている。9・10の懸垂文間は磨り消している。11は口縁が内湾する甕。口唇直下に沈線を一本めぐらしている。
12・13は底部片である。いずれも底面に組みものの圧痕がある。後期前半である。
埴輪 図37の14〜18は円筒埴輪の口縁部片である。色調は14〜16・18が赤褐色、17が淡赤褐色である。胎土に砂粒・チャート粒を含んでいる。焼成は17以外は良好である。口縁はいずれも外湾しており、17は外反ぎみで、口縁端部の内側にめぐる凹線が顕著である。口唇と口唇直下をハケの横方向による整形を施した後、縦方向にハケ目を入れている。内面のハケ目は横及び斜位である。
図38の19〜33は円筒埴輪の胴部片。色調は22・25が淡黄褐色を呈し、他は暗赤褐色を呈している。19〜22・25・26は凸帯をめぐらし、ナデを施している。凸帯の幅は二・二〜三・二センチである。19・24・27には透孔(すかしこう)がある。22で見られるハケ目の施文具幅は二・四センチで、ハケ目は十三本である。19・22の裏面にはハケ目痕がなく、22では輪積み痕が見られる。
図39の39は基底部片。色調は赤褐色を呈している。33〜39の色調は33・37が赤褐色、36・38が赤味の強い赤褐色、34・37・39は淡黄褐色を呈している。胎土には砂粒やチャート粒を多量に含んでおり、円筒埴輪と変わるところはない。33は器壁が厚く、形象埴輪の円筒部である。34〜38・40は形象埴輪片である。34は粘土紐を円形に、内部にも十文字に粘土紐を貼り付け、上から板で押さえつけている。地文のハケ目は細かく、裏面のハケ目は粗い。馬形埴輪の部分であろうか。37は表裏とも無文。36は撥(ばち)のコーナ形を呈している。器面と上端には通常のハケ目整形を施した上からハケ目による波状文を施している。器面の波状文の施文具幅は、四・一センチである。下端の淡いハケ目は弧を描いており、破片の直下で本体に接続していたことをうかがわせるとともに、本体がカ—ブを描く部分であったことが知れる。裏面は通常の縦方向のハケ目である。38は幅広の粘土紐を円筒部に貼り付けた部分で、無文である。40は上端が内湾している。幅二・九センチの粘土紐を鉢巻状にめぐらしている。細かいハケ目が淡く残っている。内面は、ハケ目が強く残っている。36は人物の髷、40は頭部、38は衣の裾部であろう。

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