北本市史 民俗編 民俗編一覧
第11章 伝説・世間話・昔話・諺
第3節 昔話
3 かちかち山いたずら狸がいてね、おじいさんの畑をいつも荒らして困っていたんですよね。困っちゃったおじいさんは狸をこらしめてやろうとね、狸をとっ捕まえてきてうちの土間の天井から逆さ吊りにしてね、おしおきをしたわけ。おじいさんは、「おばあさん、おばあさん。今夜、狸汁にして喰っちゃおう。」といってまた畑へでていきました。
おばあさんは、うちで、米つき仕事をしていると、狸が「おばあさん、おばあさん。手伝うから降ろしてくれ。」っていう。「お前を降ろすとおじいさんに怒られるからだめだよ。」って言ったんだけどあんまり狸が言うのでおばあさんは狸をほどいてやっちゃった。
そこへ兎が通りかかり、「おじいさん。どうしてそんなに泣いてんの。」かって。それで、おじいさんがそのわけを話したら、兎が「おじいさん、仇討ちしてやるからまってなさい。」って言ってね、それで兎は狸の家へ 行ったわけですよね。そいで「狸さん、山へ木の枝拾いに行こう。」と山へ誘いだしました。それで二人とも背中へ木をしょって帰ってきたわけですよね。
で、帰りながら、兎は火打ち石を取り出してね、狸の背中のたき木にね、火を着けようとしてカチカチカチカチ、カチカチカチカチ、ってね。前を行く狸がね、「今のカチカチっていう音は何の音。」っつったら、「カチカチ山だよ。」っていうのでね、狸は「あ、そうか。」ってまた前を行ったわけ。ところが、こんどは、そのカチカチいったのが背中に火がついちゃってね、ぼうぼう音がしたんですよね。「兎さん。ぼうぼうするのは何の音。」「ぼうぼう山だよ。」って言うから狸も行きかけたけど、そのうちすっかり火がついちゃって、背中に大やけどしちゃったのね。
やけどして、うちでうんうんうなっていると、兎がね、唐辛をたっぷり入れた味噌をねってね、狸のとこに見舞いにきたわけ。それで、「これはやけどに良く効く薬だから塗ってごらん。」というので、狸はそれを背中に塗ってもらったわけ。そしたら、その痛いこと痛いこと、ひりひり痛くって跳び上がるほど痛かったんですって。
狸はそれでもやけどが治っちゃったんでしょうか、兎のとこへ遊びにきたんですね。兎は、木の舟を作ってたんですね。それで、「兎さん。何してんだい。」「これから川へ遊びに行くんだ。」「じゃ、おれも舟を作って遊びたい。」って言ったら、「お前はなあ、木の舟はなかなかできないけれど、泥の舟ならすぐできるから、泥の舟にしろよ。」って言うから、狸は泥をべたべたべたべたやりながら舟をこしらえ、それで川へ行ったわけ。
そして、川の中ほどへ行くうちに、泥の舟はだんだん沈んでいっちゃって、驚いた狸は「兎さん、助けてくれ。」って言ったけど、兎は「おじいさんの仇討ちなんだ。」っていってね、その狸をやっつけちゃった。狸は川へ沈んじゃったのね。
それで、兎は家へ帰り「おじいさん、おじいさん。おばあさんの仇を討ちましたよ。」って報告したんですね。
と、いう話。
▽話者・・・岡田知恵子さん(西高尾昭和三年生)