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第11章 伝説・世間話・昔話・諺

第3節 昔話

22 よってくだんのごとし
昔話で、子供にゃむかねえ話だが、一つ やりましょう。
昔は借用書を書くのに、一つ金何拾何円也、右の金いん正に借用いたし候也。しかる上は、まんいち返せない時は何々を抵当に入れる、と書いて、最後に持っていって、後日の為金印借用の証よってくだんの如し、とこう書いたんですってね。
日本の国にもとヨッテという人とクダンという、とても堅い人がいたんだって。石橋を金づちでたたいて渡るか、石橋で金づちをたたいて渡るかというようなとても堅い人がいたんだって。
そしてある時、クダンとヨッテが、二人が堅い同士でいいから、伊勢参りに行こうじゃないかという話がでて、そらいいだろうと話がまとまり何月何日出発ということんなった。ところが、丁度出かけることになった時、ヨッテに用事ができて、伊勢参りに行くことが出来なくなっちゃったんだって。せっかく相談して思い立つたんだから、じゃ、クダンだけで行ってきたがいい。ヨッテはうちで留守居番しているからって。というわけで留守居してたんだって。
ところで、往復二か月もかかる旅行だから女房を置いていっちゃ心配だてんで、女房をヨッテのところに預けたんだそうですよ。堅いヨッテとこに預けとけば大丈夫だからてんで。
ところが、あにはからんや。
ヨッテは、クダンの女房を離れ離れの家に置いといたんじゃてんで、家へ連れてきといたんだそうですね。別間に寝たんだが、別間に寝かせても心配だ。いつの間にかぐれた男が入りこんでくるかわからないてんで、しまいにや、自分の布団のなかに一緒に抱いて寝たんだって。そしたら変なことになっちゃってね、クダンのおかみさんのお腹が大きくなっちゃったんだって。こら困ったことができたと思っているうちに、クダンの方も伊勢参りに行って二か月たっても、三か月たっても帰ってこないんですって。そしたら、帰ってきてから話をきいたら、堅いクダンがね、やっぱり伊勢へ行って女つくっちゃったんですね。それで三月たっても帰ってきらんねんですって。
それで世間の人も、その話を聞いて大変な話だっちゅうことでね、ヨッテもクダンも日本一堅い男だと思ったら、クダンもあんなことしでかすし、ヨッテもあんなことしでかすから、あんなクダンとヨツテの名前を証文に書いても堅いことするとは限らない。こらあ一層のことこんなこと書かないほうがいい、というわけ、後日のためよってくだんの如しを証文に書かなくなった。そういうわけなんです。
  ▽話者・・・新井宇一郎さん(同前)

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