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第2章 社会生活と親族

第6節 親族のつきあい

1 本―分家集団

親族間のつきあいには、血縁関係および姻戚関係を含めた様々な側面がみられる。血縁関係と姻戚関係を含めてシンセキ、シンルイなどとよんでいるが、ここではまず、本—分家関係の結びつきによって展開されるイッケについて触れていく。
イッケとは本—分家関係によって成立する親族集団の名称である。イッケの特徴をいえば、基本的には系統を同じくする家同士の関係で、その関係は世代を越えて不変である、ということがあげられる。すなわち、ひとつの家から派生した家々の本—分家関係は、更に次の本分家関係を生み、それが連続して広がっていくものである。そうした家々によってイッケは構成されるのである。したがってイッケは共通の祖先をもつ親族集団ということもできる。このため、イッケの成員は同じ姓をもち、墓地を共有したりすることが多い。特にイッケで墓地を共有している場合、総本家を出発点として分家の墓石ができていくので、この配置をみることで本分家関係の順序を把握できたりする。また、前節で述べたように分家を出すさい、本家周辺に出すことが多かったので、イッケ同士がそのままゴケングミアイ(五軒組合)を構成する地縁的集団にもなったりする。
このようにして構成されるイッケは、日常生活から祝儀不祝儀に至るまで、様々な面でその機能が展開される。その主たる目的は相互扶助である。たとえば、日常生活の面では、農作業の共同労働、道具の貸し借り、経済的な困窮の相互援助などを行い、相互に何かと頼りにし合う。更に祝儀不祝儀をはじめとした儀礼的場面では、イッケの相互扶助は一層顕著にみられることになる。儀礼の遂行には、イッケ同士が役割を分担しあったり、また贈答の交換も頻繁に行われる。
また、こうしたイッケの活動を指導し、中心的な役割を担うのが本家の務めとされている。イッケにおける本家の優位性は大きく、イッケ内の決定事項には本家の意向が大きく影響する場合が少なくない。イッケにおける本家の優位性はその経済力にあるといえる。というのも、分家は本家からの何等かの財産分与によって成立するからである。すなわち、分家にとって本家は新世帯創設の基盤を与えてくれる存在である。したがって本家はその経済力を背景にして分家に対し大きな権限をもっことになるのである。そうした本家の立場が具体的に発揮されるのは、正月、盆、祝儀不祝儀をはじめとした、儀礼的場面である。例えば、年始の挨拶はイッケが一堂に会し、イッケ同士の連帯意識を確かめる重要な機会だが、これは総本家に集合し、これへの挨拶から始まるのである。このような場においては、各家の座順がたいてい決められている。それは本—分家関係の順序に従っており、総本家を上座にし、そこからの分家が古い順に座していくというようになっている。
冠婚葬祭についても本家は指導的立場にある。婚姻に関して本家は分家の縁談の世話をしたり、仲人の役を務めたりする。そして分家が独自に縁談を決めた場合でも、形式的にではあるが分家は本家(もしくはイッケ全体の)の承認を得ることになっている。葬儀についても本家が葬儀委員長となり、葬儀の指揮をとったりする。
以上みてきたように、イッケの機能は本家を中心として展開されている。イッケにおける本家の優位性は系譜上の古さに求められていることは否めない。しかし、現実的には経済力に大きく依存しているといえる。というのも、既にみたような、イッケ内における本家としての対面を保つにはある程度の経済力が必要である。そこで本家が何らかの事情で没落した場合、分家が本家に代って指導的立場につくこともある。
なお、イッケは姓を共有していることは述べたとおりだが、例外もみられる。それはツブレヤシキを再興して生家から離れた場合である。ツブレヤシキの再興には絶家の性を継承することになっているからである。

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