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第3章 農業と川漁

第2節 水田と稲作

2 稲作の変遷

稲の品種
現在作られている品種は、武蔵黄金・日本晴などだが、明治三、四十年代生まれの古老の記憶にある稲としては、愛国・関取・神力(しんりき)・銀坊主・不作シラズ・シメハリ・福島早稲・中手アサヒ・晩手アサヒ・オオヤシマ・ヤシマ千本などがある。それぞれの品種が作られていた年代を確定することはできないが、この中の愛国、関取、神力、銀坊主は昭和初期まで作っていた品種である。当時もっとも多く作られたのは愛国で、これは中手で籾(もみ)には芒(のぎ)があり、こぼれにくく(穂から籾が離れにくい)、米の味はまずまずだったが、稲藁の質は良くなかったという。銀坊主も作る人が多かったようで、中手で芒はなかった。関取はどの程度作付けられたか不明だが、これも中手だったという。
他の品種は昭和初期以降のもので、福島早稲は収量の多い早稲種の稲で藁の質も良く、これと不作シラズは作る人が多かった。ヤシマ千本は終戦のころに作った品種、オオヤシマは晩稲で、収量が多いうえに米の味も良かったといわれている。
古老からの聞書きで知ることができる品種は以上の通りだが、『日本主要農作物耕種要綱』で明治末ころの埼玉県内の品種を見ていくと、早稲では四〇日・烏早稲・保村、中稲では愛国・都賀錦・関取・近江・荒木・神力、晩稲では竹成があり、このなかでは愛国が広く作られて県下の稲作面積の約三割に達しているとある。また、昭和十年ころの作付品種を昭和十一年の『水稲及陸稲耕種要綱』(農林省農務局編、大日本農会刊)からあげると、埼玉県では八関・愛国・保村・撰一・新関取・改良中川・関取・近江・鹿倉錦・不作シラズ・銀坊主・神力・太郎兵衛糯・小針糯・三次郎糯・保丹糯が記され、旧北足立郡内では、八関・保村・撰一・関取・銀坊主・太郎兵衛糯・小針糯・三次郎糯が栽培の多い品種とある。また、これらのなかでは不作シラズ・八関・撰一が栽培見込み割合の高い品種となっている。
明治末と昭和十年ころでは、愛国・保村・関取・銀坊主・神力が共通して見られ、息の長い品種ということができる。

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