北本市史 民俗編 民俗編一覧

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第3章 農業と川漁

第5節 労働と休日

2 休日と農耕儀礼

(二)休日と農耕儀礼の諸相
正月儀礼から
正月に行われるさまざまな行事のなかには、農作業の仕事始め、農作物や養蚕の豊穣を願う儀礼などが含まれている。近代化とともに職業の分化が進み、また、他の土地から多くの人々が北本に移り住むようになる以前は、ほとんどの家が農業を営んでおり、正月行事には農作業の無事や豊穣への願いを色濃く見ることがてきる。
個々の正月行事は第九章で詳しく述べられるので、ここでは農耕と関連が深いものをとりあげると、たとえば正月十一日にはクワイレ(鍬入れ)、十四日にはハナカキ、十五日にはマユダマ(繭玉)作りが行われている。
鍬入れはサク入れともいわれ、農家の仕事始めである。これは十一日の朝に畑に鍬を持って行き、少し畑を耕すことは全市的に一致しているが、家によっては荒神様のハッチョウジメを榊に付けたものと米を一升耕に入れて持参し、少し耕したサクに米を埋めて榊を立てたり、あるいは枡に米と鏡餅を割ったものを入れ、幣朿を付けた竹とともに畑に持参し、サクを三サク切って米と餅を埋め、その上に竹を立てて「ワセ、ナカテ、オクテ」と唱えて豊作を祈願するなど、少しずつ異なった内容が伝承されている。
ハナカキというのは、ニワトコの枝を切ってきて皮をむき、中の白い樹肉を花のように削ることである。現在ではほとんど行われなくなってしまったが、昭和初期まではたいていの家でおこなっており、数種類の大きさの花木(ハナカキをした木のこと)を作り、年神様や家の中で祀る神々、さらに庭に積み上げたコエボッチ(堆肥)の上にも飾っていた。堆肥の上に立てる花木は、高尾ではコイガミサマ(肥神様)と呼ぶ家もある。花木は作物の穂を現しており、作物が堆肥によって育ち、豊作の姿を示しているのである。
正月十四日に行われる繭玉も、これと同じような意味をもっている。これは米の粉で繭や里芋・サツマイモなどの形に団子を作り、団子木と呼ぶコナラやソロなどの木の枝にさし、台所(土間)に飾った米俵の所に立てて飾ったり、年神様や荒神様などにも飾り供える行事である。家によっては年神様の団子は、特別に大きな団子を一ニ個作り、梅の木にさして飾ったり、あるいは、団子ではなく紅白の餅を木にさして飾る家もあったし、台所の団子木には、麦がとれるようにと小麦粉で作った黒い麦団子もさすこともあった。
家ごとに伝承が若干違っているものの、繭や作物の形を模した団子や特別な粉で団子を作って飾るのは、豊かな収穫を願って行われることである。

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