北本市史 民俗編 民俗編一覧
第4章 職人と技術
第1節 日常生活と職人
4 ショウユヤ(醤油屋)
高尾の新井正作さん(明治四十二年生)は二〇歳の兵隊検査を終えて、本宿の岡醤油店に奉公した。その後、高尾で醤油店をしていた本家が廃業して、クラ(醸造工場)が空いていたので、これを借りて自分でショウユヤをはじめた。戦後は商売もうまくゆき、使用人も使えるほど順調にいった。昭和二十四年に現在のクラを建てられるほどであったが、あとを継ぐ者がいないので、現在まで細々ながら続けてきた。ショウユは大豆(一トン)、小麦(一トン)、塩(九〇〇キログラム)の割合で醸造される。大豆は一・二五パーセントほどの水を加え、六時間ほど蒸してから、水圧一五インチで圧縮して油を抜く。小麦は蒸して(昔は焼いて粉砕して蒸気をかけた)コウジ(糀)菌を加えてムロ(室)に入れる、ムロは七五度に保ち一昼夜ねかせる。油を抜いた大豆は、一六石を一六本のモロミオケ(一本四石入り)に一石ずつ入れ、これに水を四分の一石、麦コウジ一石を入れて、九〇〇キログラムの塩を一六等分して配合してかきまぜてねかせる。これをモロミといい、二日〜三日に一回の割合でかきまぜ、一年から一年半ねかせる。モロミは比重計で計ったものが二三度以上でなければならない。塩は一石に対して七〇〇匁で一度あがるといい、「度が強くて甘く感じるものがよい」という。
一年から一年半ねかしたモロミは、しぼり袋に入れ、フネに積みあげてしぼる。このしぼってできたショウユをキアゲという。フネから流れ出るキアゲは地面に掘り込んだコンクリートのタメに溜め、これをタメオケに汲み入れて貯える。キアゲは釜に入れて熱を加え(八〇度から九〇度)てはじめてショウユになる。
<醸造用具と作業の手順>
モロミオケ
写真4 醤油屋モロミオケ
フカシオケ
大豆を蒸す時に用いる。下から蒸気を送りこむ穴と、上部から蒸気が抜けるように上下二箇所に穴がついている。フカシオケ一本には五斗(二〇キログラム)の大豆が入る。
テオケ
図4 手オケ
フネ
モロミオケから手オケで運んだモロミをこの上でしぼり袋に入れ、積みあげた袋を上から板でおさえ、石のオモシで圧搾(あっさく)する。このフネは昔のものは木製である。最近ではコンクリートで作るようになった。
タメ
写真5 タメ
(高尾 荒井正作氏宅)
タメオケ
写真6 生オケ
火入れオケ キアゲを釜に入れて、八〇度から九〇度の熱を加えて雑菌を殺す。こうして処理したものを釜から汲みあげて防腐剤を加えてさましておくオケのことをいう。商品はこの火入れをしたものを容器に入れてできあがるが、近所の人や家族や親戚などが味を忘れられず貰いにくるほかは売りに出すことはあまりしていない。
カイ
モロミオケの中のモロミを四人でかきまぜる時に用いる。材料はケヤキかカシの木で作ってある。毎日使うものなので、丈夫なものでないともたない。幅は五寸(一五センチ)、柄の長さは八尺(二四〇センチ)ほどである。
カキ棒
竹の棒の先に小さな板をとりつけたものである。このカキ棒は、モロミのできあがりのようすをその軟らかさで判断したり、モロミをかきまわしてみたりする時に用いる。
ワタリ板
カシの木などの堅い木の板で作られている。モロミオケに渡して、この上に乗ってモロミをこなす時に用いたり、モロミの状態をみたりする時に乗って作業をする。幅は一尺(三〇センチ)、長さは一間(一・八メートル)のものが使われる。