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第7章 人の一生

第2節 結婚

1 結婚の条件

仲 人
仲人(媒酌人)は現在では結婚する双方の同意によって夫婦一組立てるのが普通であり、場合によっては双方一組ずつの夫婦を頼む。職場の上司などを「頼まれ仲人」とすることも一般的な形となった。しかし元来は婿方嫁方一人ずつ、それぞれを良く知った人が仲人に立っていたもので、夫婦でなくても男女でなくても構わなかった。
「仲人四十八帰り」といって、婚礼まで行き着くにはいわゆる「仲人バアサン」はうまくいっても最低片方に二〇回は足をじかに連んだものだった。見合いが終わるまで五、六回「いかがですか」と伺いをたてに行くしタルイレ(樽入れ)の後も、婚礼の日柄を決めたり、嫁入りにはどんな物を持って来てくれるか、双方のお客さんの数など、相談をしなければならない事は様々あった。東間のYさんは二二組の仲人をしたが、仲人は嫁入りの話をもち込む方には、言いたいことをみな言わせなくてはいけないという。千度参りまでしなくてはなかなか見合いまではいかないものだった。財産の釣り合いとか系図とか全部調べるものだった。もらう方は家系がわかって、嫁になる人が働いてくれればそれで結構だといった。娘を親が気に入っても息子が気に入らないときには、持って行く道具でだました。やる方は相手の財産があるかないかを気にした。ヒノエウマ(丙午)の娘はもらう方では気にした。仲人は相手から言いたいことを言われても、向うの気を見て我慢してやらなければならないから、好きでなければできないという。
仲人バアサンが所々にいて、好きでやっていた。それがまた上手で繁盛した。仲人バアサンは後家でも構わなかった。たまには男の人がいた。顔が広くてあっちこっち出歩いて口をきくのに馴れていた。頼まないでも、どこそこに娘さんがいる、ここそこに男さんがいるというと、お互いの財産とか、百姓の大小とか釣り合いを見計らって話を持って来た。
高尾のAさん(明治三十三年生) の結婚当時、仲人バアサンといって世話好きのお婆さんがいた。仲人を商売のようにしている人もあって、浦和の方からやってくるとその足代を着く早々請求するぐらいであった。お隣りが財産家で嫁がなかなか見つからなくて、埼玉一帯を探して歩いたほどだった。髙尾辺りにも仲人バアサンが何人かいた。終戦と同時にいなくなった。仲人バアサンがもらう方へ話を持って行って、こういう嫁がいるがどうだとか、お宅ではあそこんちへとか、仲人バアサンは何度も足を運ぶものだった。遅れて二五歳にもなった子がいる場合は、親の方が仲人バアサンに頼む場合もあった。農家は農家取り引きといって百姓同士でやり取りし、商人を嫌った。見合いまでもっていって両家の仲をまとめることをハシカケといい、ハシカケ仲人として最初に結婚話を持って来るのは大体親戚が行った。
ニッ家のYさん(大正七年生)が結婚するとき、話を持って来てくれたのは、嫁ぎ先に近い懇意な人で、仲人バアサンをやっていた人である。実家の方もこの人を良く知っていた。ご主人になる人とは話なんかはしたこともなかった。農家は嫌いだから一度は断ったのだが、でもだんだん戦争も激しくなってそうもいっていられなくなった。見合いまで話が進んだら「玉が抜けてしまった」といって嫁入り話がまとまる。仲人は、夫婦もんでないと片割れができるといって嫌う人も多かった。
高尾のSさん(明治四十四年生)の仲人は鉄砲宿のタンス作りの箱屋さんだった。仲人さんは口がうまいから口車にのっかって嫁入りしたようなものだという。あんまり仲人さんが嘘を言ったので嫌になって病気を理由に断ろうとしたが、親がうまい話を真に受けてどうしてもというので仕方なしに来た。仲人さんは五つも六つも婿さんの歳をごまかしていたが、最後まで言わなかった。仲人の話によると、一緒になると同時に分家して家を建てる、畑も三、四反くれるという触れ込みで、姑・小姑もいるけれど離れて暮らしているので辛抱しきれるだろうということで仲人さんの口がうまいからそれにのってしまった。二三歳の時の一月の十日に奉公に行っていた酒屋から帰って来て、その日のうちに見合いをやった。その後一月二十日に御祝儀をやった。とにかく早く事が進んで随分急いでいるのでおかしいなと感じた。御祝儀が終わって一〇日から一五日経って落ち着いてから農閑期の間にナコウドレイに行った。仲人婆さんには、結納の三割とか何割とかをお礼とした。もらった方が七分三分とかいい出して両方から出した。
双方の親が結納金の一割を仲人礼として出したという人もある。その後初子が生れたとき、お七夜や宮参り、オビトキなどには仲人を呼ぶ。お宮参りには着物か着物代を贈るし、呼ばれるとお祝いを持って行くので、仲人礼では足りないほどだという。仲人が亡くなったときには葬式には行くものだ。

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