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第7章 人の一生

第2節 結婚

1 結婚の条件

アシイレ
樽入れ・結納がすんで御祝儀をあげるまでの間に、アシイレ・カタイレと称して仮祝言をあげるのは、そう珍しくない婚姻習俗であった。現在では全くみられないが昭和二十年代初めまでは各地にアシイレがあった。
高尾では五〇年前ぐらいはアシイレもあったという。春から秋にかけては農作業が忙しいため、結婚式は暮から春にかけてが多い。しかし年まわりが悪い人や家の事情で結婚式をのばさなければならない人は、アシイレといって仮祝言をして夫方へ入ってしまう。ただしこの辺では特例のことであり、なかにはアシイレしてから結婚式の間に別れてしまう人もいた。アシイレの場合は、お見合いや結納が済むと、仲人、組合の代表の男の人、両親、嫁と婿で内輪の宴を行い、三三九度の盃を交して正式の嫁とする。
荒井でもたまにはアシイレといって、嫁さんになる人が御祝儀する前に手伝いに来ていた。大正十二年生れのTさんの母親はアシイレをしたという。アシイレは試しをされるのだという。長い人は半年ぐらいアシイレをして働き、姑さんたちにみてもらう。この人ならいいということになったら式をする。足入れの前には組合の人に正式に披露してないから、帰ってしまったり途中で帰されたりしても、どちらの家にとってもあまり問題にはならなかった。アシイレの事情や都合は様々で、嫁の衣装やら仕度が整わないからとか、嫁ぎ先に手が足りないので農業労働力の補充のためとか、女手がないから家事労働をしてもらうためとかがあげられる。
明治四十二年生まれのSさんは、桶川から北本に嫁入りした。近い親戚だけが集まり、仮祝儀をやって、しきたりだからといって特に理由もないがアシイレをした。大正七年生れの高尾のAさんは市内中丸から嫁をもらった。シキタリであったのでアシイレをした。籍は三年後に入れた。昭和十年生れのKさんは鴻巣から北本に嫁にきた。なぜ足入れをしたかわからないが、御祝儀の一週問前にやった。アシイレの場合にも近所には紹介したと、昭和十一年生れで行田から宮内に嫁入りしたTさんはいう。アシイレをした事情として最も多く説かれるのは、結納から御祝儀まで期間があったからという理由で、次に多いのが、家風にあうかどうかをみるという理由である。
北本市内から嫁をもらった昭和二十年生まれの中丸のKさんは、結納から御祝儀まで間があったのでアシイレをした。深井のNさん(明治三十六年生)は、鴻巣の笠原から嫁をもらった。家風にあうかどうかを見るということで、カタイレをやったが、当時の習慣だった。良さそうだったら本祝言をするが、まず破談になることはなかった。高尾のKさん(明治四十年生)は隣り組内から嫁入りした。家風にあうかどうかを見るために、アシイレをして、一年目で祝儀をした。荒井のEさん(明治三十二年生)は、家風にあうかどうかを見るためにアシイレをして、子供ができてから祝儀をした。
年まわりが悪いとアシイレをした。二二歳で嫁ぐものじゃない、寅年で嫁ぐものじゃないといわれていた。「冬至から正月の間には神様は位取りをしないから、この間に嫁ぐとよい」といわれたりした。
昭和十一年生まれの常光別所のMさんは、結婚式が二二歳の時だったので、年まわりが悪いといわれ、その前に二日間アシイレをした。深井のKさんは十一月二十三日に結納をしてアシイレを一週間やった。寅年で年まわりが悪かったので、節分後に式をあげた。
高尾のTさん(大正十年生)は上尾の大石から嫁入りした。六月十五日にアシイレをしてその後は、農業で忙しいから嫁ぎ先の仕事をした。御祝儀は十二月二十五日にあげた。宮内のMさん(大正七年生)の息子の結婚の時は、母親であるMさんの具合が悪かったため、アシイレをして手伝いに来てもらった。
下石戸上から荒井に嫁に来たOさんのカタイレの話。五月にカタイレをし、十一月にイチゲンザシキをやった。カタイレは強制的にさせられた。結納はお金の代わりにタンスをもらった。タンスが嫁入り道具となった。五月に固めの盃をした。婿の家には裸同然で、財産も何も持たずに行った。嫁迎えには夜、隣りの家のクミアイの人一人と仲人一人と婿が来て、嫁と父が加わって婿方に行った。固めの盃は仲人一人と婿方のクミアイ一人、婿嫁で奥座敷でした。それから十一月まで、水汲み、洗濯、片付けの家事や、農作業もやった。カタイレ中は姑にあれしろ、これしろといろいろ教えてもらう。カタイレ中でも節供になると里帰りはした。十一月にイチゲンザシキをやったが、嫁は普通の着物と羽織で、すぐに接待に移った。朝から食事の用意をして、三座敷を使ってお客を代え、深夜まで酒を飲んだ。つぎの日は里帰りだが、嫁一人、髪を洗いに行くという。すぐに帰ってくる。
アシイレの期間は子どもをつくらないものであるという。

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