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第7章 人の一生

第3節 葬送

1 死と霊

死の予兆
人の死期が迫ると、前もって何らかのきざしがあると考えられている。一般には、烏鳴きが悪いと人が死ぬ知らせであると伝えられている。烏は何か死の世界とこの世をつなぐ使者と言うように考えられた。また、人が死ぬときは、肉体から霊魂が離れていく。しかもその一部は、死の直前から遊離してしまうものと考えられていたらしい。
亡くなる人がでる家のまわりで、烏が鳴くことが多いという。烏の鳴き方が普段と違ったり、一声だけ鳴いたりすると、何かあるんではないかという。亡くなる人の家にはその鳴き声が聞こえないが、他人には聞こえる。
夜遠い所でドスンと音がすると、誰か死ぬという。寺の門でドスンと音がすると、仏が来るという。寺の住職は、檀家の人が死ぬと、夜に寺で音がして、その音で若い人が死んだか、年寄りが死んだかわかるという。死んだ人の魂が、死ぬ前に家に来て、入らずに戸に当って音がしたという話を聞いた。
流れ星が流れると、魂が飛んだから、誰かが亡くなったのだろうといった。
高尾のSさんの話。ロの悪い人は烏に憎まれる。色の黒い人は憎まれない。自分の身寄りだとか親とかが亡くなる前は、烏が騒ぐという。Sさんのご主人が、十一月十二日に病院で息を引き取ったんだけど、烏が嗚くも鳴かねえもないほど随分騒いでいたと、後から近所の人が言っていた。家の者には鳴いてんだかどうだかわからない。ジイサンは、朝の四時に息を引き取ったんだけどその晩は大きなまん丸いお月様がでていて、そのお月様の丸い中に、ジイサンの体とか手とか足とかを拭いている影が見えた。その朝亡くなった。Sさんのご主人と同級生の近所のジイサンが亡くなったときは、夜、家の雨戸をドンとはたくんで外に出てみると、誰もいないということがあって、その後何日かしたらそのジイサンが亡くなった。外から「おはよう」と言葉をかけるので、外に出て電気をつけると、誰もいないこともあった。こういうことは度々あったが、ご主人が死んでからは一度もない。

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