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第7章 人の一生

第3節 葬送

1 死と霊

霊 魂
死んだ人の霊魂は、四十九日は家の回りにいて、屋根の棟にとまっているという。今日ではないが、石戸では血族の者が屋根に登って、死にそうになった者の名を呼んだ。人がシニマグレケ(死にそう)になったとき、その人の名を大声で呼べば、生き返るという。友達が四〇歳のとき、シャク持ちでシ二マグレケになった。子が、寝ている母親の耳元で「おっか、おっか」と大声で呼んだ。すると母親は気がついた。その人はきれいな花が池の周りにいっぱい咲いているので、その花が欲しくて欲しくて、採りにいこうとしたら、後ろで娘の「おっか、おっか」と呼ぶ声が聞こえて、それでひっ返した。その人はその後二〇年近く生きた(荒井)。
死んだ人の上に猫をのせれば、猫は魔物だから、死人が息を吹き返すもんだという話は聞く。だから猫は近づけてはならない。
宮内のOさん(大正三年生)の話によると、寿命院のヤマでは、タマセエ(魂)をいくつ見たかわからないほどだ、と戦後すぐ八八歳で亡くなった人がいっていた。こそこそ雨の降るさびしい晚だそうだ。タマセエは見つける人はよく見るが、見ない人は一生見ないという。高尾のSさんは、子供の時分に、お盆の頃の夕方ホタルを取りに田んぼの方へ遊びに行ったところ、「タマシイ」を見た。手も足もない、笠をかぶって白装束のものが、お天道様が引っ込む方の、お月様の影の方に、ファーッとただじっとしていた。その内に段々消えていった。またSさんが子供の時分に、近所の家のオバアサンが、いじめられて井戸に身投げして亡くなってしまった。その井戸を埋めたところ、その後幽霊が出るようになり、白装束で髪を垂らして、井戸の上にじっと立っていた、そんな話をよく聞いた。
今日ではほとんどないが、石戸では死者が出ると、ミコを呼び、仏のクチヨセを行った。ミコはシキミの葉を入れた水を仏前に供え、秘密の箱といわれる箱に寄りかかって、仏が生前に思っていたことを口走るという。

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