北本の仏像

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【序】

近年、激しい都市化の波に洗われて変貌の著しい当市では、先人から守り伝え受け継がれ、年輪を重ねた有形無形の貴重な文化財が、次第に消滅しようとしています。このような状況の中で、当委員会では、文化財それ自体が価値があるとともに、地域社会の歴史を物語る貴重な資料であり、人々の心の故郷であるとの考えの下に、その調査・発掘と保護のために微力を注いでまいりました。そして、調査結果については、昭和47年より50年までに6冊の報告書を刊行し文化財の紹介と啓蒙に努めてきましたが、今度第7集として「北本の仏像」を発行する運びとなりました。これもひとえに関係された方々の格別のご指導とご協力によるもので、厚くお礼申しあげます。
さて、ご承知のように大宮台地のほぼ中央に位置し、遠く縄文時代の太古の人々の住居跡等の遺跡が散在する歴史の古い当市には、古いむかしに建立された立派な本堂や鐘楼を山門や土屏でめぐらし、広大な墓地を有する由緒ある古刹や、かつては寺院として栄えましたが、いつの時代からか統合されて廃寺になり、今はその周囲に墓地をめぐらすだけのお堂などが数多くあります。これらの寺院やお堂は、古くから人々の信仰の中心となり、心の拠り所として、関係者や土地の人々により大事に保護され保存されてきました。そして、その扉を開きますと、内陣の奥深くには、或は温顔の釈迦如来や阿弥陀如来、或は慈顔の弥勒菩薩や十一面観音、そして或は激しい怒に燃える忿怒相の不動明王、さらには帝釈天、風神、雷神、十六羅漢などの様々な仏像が安置され、神秘的な世界を形成しています。これらの仏像の多くは、ただ単に人々の信仰の対象であるばかりでなく、芸術的にも価値の高いもので、拝観する人々の心を洗い清めるとともに、心の安らぎを与えてくれます。このように、文化財としてばかりでなく美術的にも価値の高い仏像は、安置している寺院やお堂のかけがえのない寺宝であることは勿論、地域社会の人々の貴重な文化遺産であると言っても過言ではないでしょう。
今回の調査では、特に市内に現存する寺院やお堂の仏像に焦点を合わせ、できるだけ正確に調査・記録して報告書に収めましたが、短期間の調査で不手際の点が多々あったため、不充分な調査となってしまいました。後日、機会がありましたら、寺院の境内などの石仏と合わせて残された仏像も調査し、完全を期したいと思っています。
おわりに、寺宝として貴重な仏像の調査に心よくご協力くだされ、色々とご示唆くださいました寺院やお堂の関係者の方々、非常に多忙な折にもかかわらず本調査をお引き受けくだされ、調査に献身的に専念くだされた県立博物館学芸員の林 宏一氏、そして調査にお力添えを賜わった市文化財保護審議委員さんに深く感謝申しあげます。そして、本書が既刊の報告書と同様により多くの方々に愛読され、仏像の見方や仏教を理解する参考になるとともに、郷土北本の歴史を知る手がかりとなり、より豊かで文化的な地域社会づくりに寄与することを祈りながら、発刊のことばといたします。

  昭和52年3月30日

北本市教育委員会 教育長 高橋英五


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