北本の絵馬

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【厳島神社】

厳島神社

広島の厳島神社は、祭神が水神であるという説から民間では航海守護の女神として、また、弁財天の社として信仰されていた。落書や絵馬などからも室町期あたりの庶民信仰の様子を知ることができるという。各地に勧請された社もこれらの信仰に影響されることが多かったであろう。
宮岡地区の厳島神社も沼の中の凸地に勧請されている。蛇の絵馬が奉納されているのは、蛇が水神の使と考えられているからであろうが、県西北部の養蚕地帯では繭を食う鼠の害を除ぐため、蛇の絵馬を奉納祈願する例もある。厳島神社を管理している氷川神社では”鼠除・養蚕御守護”のお守りを出している。
向い狐の絵馬も奉納されているが、五穀の豊作が水に左右されることから祈願するようになったのであろう。農穀の豊穰は、また子供の誕生や一家繁盛の祈願ともつながっていた。拝み絵馬やその他の図柄の絵馬など合わせて100枚近くの絵馬が奉納されている。片田舎の社では一定の図柄にこだわらない自由な庶民の信仰がうかがわれるものである。


お礼

”蚕が当たりますように”という祈願は豊作の祈願であり、それにともなって鼠除けや蛇の信仰とも結びついていった。祈祷神璽としての守護礼の発行は、県西北部各地にみられる。しかし、それは必ずしも蛇の信仰と一致しているわけではない。諏訪神社や馬頭観音でも豊作祈願の一つとしてお礼を発行し霊験の宣伝につとめた。また猫に対する信仰も各地にみられるが、このようなことは、養蚕地帯である郷土の特色の一面を物語るものではないかと考えられるのである。


蛇 厳島神社蔵 (14㎝×21㎝)

種々の動物が神の使いとみなされる信仰は、わが国だけのものではないが蛇もまたその一つである。蛇は水神の精霊ともいわれているが、水の神は五穀の豊作をもたらす神であると同時にそれは人間界にもあらゆる幸福をもたらす神である。絵馬は豊作の祈願か、商売繁盛、あるいは蓄財の祈願であろうか。あるいは子孫を得たい、そして一家ますます栄えますようにとの祈願であろうか。八幡田、塚越某の奉納したものである。


狐 厳島神社蔵 (14㎝×21㎝)

狐の絵馬は各地の稲荷社に奉納されており、その信仰の範囲は全国にも及ぶほどの勢いである。絵馬もまたそれにともなって、向い白狐の図柄が江戸中期ころから大量に生産されるようになった。狐の絵馬は、一般的には稲荷社に奉納され、五穀の豊作祈願をするが、この絵馬は厳島神社に奉納されたものである。図柄はやはり向い白狐であるが、これはしろうとの墨がきのもので、その素朴さには心をひかれるものがある。二匹の狐の尾が宝珠とも見られるようで、描いた人の創意がしのばれる面白い絵馬である。北袋の新井某氏奉納のものである。


拝み (男) 厳島神社蔵 (15㎝×18㎝)

拝み (女) 厳島神社蔵 (13㎝×17㎝)

拝み絵馬は、奉納した社寺の信仰・霊験が明瞭であるか、あるいはその図柄が直接神徳なりを表現していれば、おおよその祈願の内容は知ることができる。しかし、ただ拝む姿の場合、神に祈る人の心を一様に律してしまうと、拝み絵馬の面白さをそこなってしまうかもしれない。それぞれの図柄からは、いろいろなことが想像できるかもしれないのである。
絵馬は、男、女それぞれ一人を描いた一般的な拝み絵馬であるが、それでも男・女の拝む容姿や表情、また髪の形などから種々な想像もされるであろう。加えてそれぞれの地域の地方色もうかがえて面白い。清水・新井某氏の奉納したものである。

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