北本市史 通史編 自然

全般 >> 北本市史 >> 通史編 >> 自然

第2章 北本の地質

第2節 北本市域の洪積層

1 地表の起伏を左右する地下谷

「関東平野の基盤等深線図」(図13)から推察すると、市域の地下には累計(るいけい)約二〇〇〇メートルの第三紀層と洪積層が堆積していることが予測される。
関東山地東縁から、大宮台地北西部の市域付近に向かって南東方向に張り出す基盤の高まりは、およそ大宮台地の高位面にあたり、春日部付近や大宮付近の基盤の低位部は、沖積低地や大宮台地の低い部分とほぼ一致している。このように見てくると、関東平野の基盤の形状が全体として埼玉平野の地表形態を大枠(おおわく)で支配しているといってよい。
埼玉平野一円に堆積する洪積層の厚さは、四〇〇メ ートル前後はあると推定されているので(森川・一九七〇)、揚水利用のために掘られた深井戸のボーリング資料(図16-17)は市域の地下深部の洪積圄の堆積環境を推しはかるのに役立つ。
この資料に認められる海面下三〇メートルから一五〇メートルの間の七~ー〇回に及ぶ砂礫層の堆積は、台地形成以前の長い洪積世の時代に、市域にしばしば河川の流下があり激しい侵食と堆積が繰り返されてきたことを物語っている。

図15 地形・地質調査地点位置図

(『市史自然』P9より引用)

また厚い粘土やシルト層・砂層の発達は、これらを静かに堆積してきた浅海(海湾底)や砂層を堆積する三角州的(さんかくすてき)な条件が共存した河口付近の堆積環境を示し、海面の上昇と下降に伴う三角州の成長と後退とが、何度も反復してきた過去を推察できる。
市域一帯の高まりについては、関東平野の基盤の高度が基本的にその形状を左右しているが、さらに海面下四〇メートル、二五メートル、ー〇メートル、海抜ー〇メートル付近の砂礫層の堆積が地表の起伏に直接的に反映し、たとえば台地下に厚い砂礫層の存在する所が地表に凹地状の低い地形を形成している。このように海面下四〇メートル付近までの地質は、市域の地形と実によく対応しているといえる。
図16・17で明らかなように、埼玉層上部層が河川の侵食によって削られて形づくられた谷地形が地下に認められる場所は、地表の谷も深く、河川の侵食をまぬがれてきた残丘状の小高い地域には古い口ーム層(下末吉(しもすえよし)ローム層)の堆積が認められる。
森川(ー九七〇)・松丸(ー九七五)らによると、市域のローム台地直下には下末吉層に対比される黄色の礫や青色粘土・砂礫層を伴う東京層が堆植し、東京層下位には埼玉層と古利根層の堆積が指摘されている。これに従えば台地下の青灰色粘土層・青色砂層・褐色砂層(かっしょくさそう)に続く五~ー〇メートルの厚さの砂礫層までが東京層にあたり、この上位の台地面が下末吉面に相当することになる。
いわば東京層下部の砂礫層の存在が、市域の地表の起伏を直接決定づけているといってよい。
埼玉層は上・中・下部層に区分される。上部層は、三枚の礫または砂層をはさんだ粘土層を主とし貝化石を産出する。この層は火山灰を含み、粘土・砂・礫の三度の堆積輪廻(りんね)を繰り返してきたと考えられている。
中部層は、一般に薄層(二〇~三〇メートル)の粘土層を主とするが、基底に薄い礫層が発達し、所によって中間に薄い礫層を伴うことも明らかにされている。基底礫層下には火山灰起源の黄色粘土・褐色粘土(かっしょくねんど)・灰白色粘土や軽石が特徴的で、それに伴う腐植土や砂・粘土のうすい互層が良好な鍵層となっていると考えられている。
下部層は屏風ヶ浦層(びょうぶがうらそう)と対比される。有孔虫(ゆうこうちゅう)(根足虫網に属する原生動物。海生で浮遊生と底生があり、地層の堆植環境の推定に利用できる)や珪藻(けいそう)(淡水から海水まで種々の水域に生育する微細な藻類で、古環境の復元に有効)から海成層・半淡半海成層・淡水成層・基底部の海成層が交互に発達することが認められており、氷河性海面変動による海進、海退の堆積環境の変化が確認されている。

図16 北本市域付近の深井戸柱状図及び地層区分-1

(『市史自然』P18より引用)

図17 北本市域付近の深井戸柱状図及び地屑区分-2

(『市史自然』P18より引用)

市域の埼玉層の深度は、上部層の基底がローム下の七三~八四メートル、中部層の基底は一三〇~ー四三メートル、下部層の基底は二三四~二四一 メートルにあると推定され、古利根層は二四〇メートル以深に発達すると考えられている(松丸・ー九七五)。
二層の礫層をはさんで砂・砂質粘土が優勢な古利根層は、所どころに軽石や火山灰などの火山起源の堆積物の存在が指摘されている。また、砂層を主とする古利根層の堆積は海退時に対応するものであり、その基底は四〇〇メートル付近にあって、下部には第三紀鮮新世(せんしんせい)(五ー〇万年前~二〇〇万年前)の堆積物が存在すると予測されている。
市域の深井戸ボーリング資料や森川(ー九七〇)・松丸(ー九七五)らによる主張を根拠に、本市の地層区分を試みた(図16・17)。しかし、深井戸ボーリング資料の不足、ボーリングコアの入手困難等の障害も多く、今後なお一層の調査と検討が必要であると思われる。

<< 前のページに戻る