北本市史 通史編 自然

全般 >> 北本市史 >> 通史編 >> 自然

第6章 北本の生物

第2節 低地の生物

2 低地の動物

水生動物
荒川本流・河川敷にある三日月湖の蓮沼や東部の赤堀川には魚介類と水生昆虫が生息する。また市域西部の各地には、湧き水から流れ出る小川があり、そこには、水中の生き物が生息する。市域の川・池沼には多くの種類の水生動物と特筆に値する種が認められる。
(一)荒川・赤堀川に生息する水生動物
埼玉県に生息する魚類は二三科六八種で、そのうちの三九・七パ—セントにあたる九科二七種が市域に生息する。
市域に生息する魚類では、コイ、ゲンゴロウブナ(へラプナ)、タイリクバラタナゴ、モツゴ、ナマズなどが多い。
これを科別の比率でみるとコイ、ゲンゴロウブナを含めたコイ科魚類は五九・三パーセント、ドジョウ等のドジョウ科、ヨシノボリ等のハゼ科、オオクチバス(ブラックバス)等のサンフィッシュ科がそれぞれ七・四パーセント、他の科は一八・五パ—セントであり、コイ、ゲンゴロウプナ、タイリクバラタナゴ、モツゴを主体とするコイ科優位の魚類相を明確に表している。
荒川に生息する代表的な魚はコイ、アユ、ウナギ、ナマズ、オイカワ、フナである。
赤堀川によく見られる魚はコイ、タイリクバラタナゴ、モッゴである。
市域の水系で確認できた水生昆虫は、カゲロウ目二三種、トンボ目七種、カワゲラ目三種、半翊目(はんしもく)二三種、甲虫目(こうちゅうもく)二八種、トビケラ目八種、双翅目(そうしもく)一〇種の合計七目一〇二種であり、埼玉県内に生息する水生昆虫の約三四・二パーセントに当たる。
市域に生息するカゲロウ目二三種の内、二〇種が荒川に生息している。マエグロヒメフタオカゲロウ、ウエノヒラタカゲロウ、ヒメヒラタカゲロウ、ミナズキヒメヒラタカゲロウは荒川の上流域で主に生活する種である。これらのカゲロウが市域に生息することは注目すべきことである。市域は下流域でありながら、流速も早く、所どころに礫(れき)があり、河川型としての瀬(せ)・淵(ふち)・淀(よど)みを備えている。そのために渓流性(けいりゅうせい)の水生昆虫の生活が可能なのである。
カワゲラ目三種のうち、ヤマトアミメカワゲラモドキとカミムラカワゲラが荒川に生息する。この事実は特筆すべきで、昭和十八年(一九四三)に浦和市の秋ヶ瀬でカワゲラが生息していた記録があるが、今では北本市がカワゲラの分布の最下流域となってしまった。
甲虫目(こうちゅうもく)は、キベリマメゲンゴロウ、ゴマダラチビゲンゴロウ、キベリクロヒメゲンゴロウなどが生息する。オナガミズスマシ類は上流域または山地渓流域まで行かないと見られなくなったが、荒井橋付近の岸辺の水草の間に生息する。
トビケラ目はヒゲナガカワトビケラ科のヒゲナガカワトビケラ、チャバネヒゲナガカワトビケラの二種とシマトビケラ科のウルマーシマトビケラ、ギフシマトビケラ、コガタシマトビケラ、エチゴシマトビケラの四種の合計六種が荒川に生息する。
エビ・カニの仲間では、テナガエビが荒井橋付近に生息する。モクズガ二はふつう内湾や汽水域にすむが河口から上流へ遡(さかのぼ)ってくる性質があり、北本市にも生息している。
(二)湧き水に生息する水生動物

写真7 ホンシュウオオイチモンジシマゲンゴロウ

市域の西側の宮岡・高尾・石戸宿には、冬期でも涸(か)れることのない湧(わ)き水がある。オニヤンマは小川の砂泥上に生活し、個体数も多い。フタトゲオナシカワゲラは県内では市域にのみ生息する貴重なカワゲラであり、湧き水の砂泥上や枯葉の間で生活する。埼玉県内のオナシカワゲラ科の分布はいずれも山地渓流域に限られているにもかかわらず、この種が生息できるのは、市域の湧き水の水質がよく冷水のためてある。アメンボの仲間では、ヤスマツアメンボが湧き水から流れ出る小川に生息する。ホンシュウオオイチモンジシマゲンゴロウは熱帯系要素の遺存種で貴重である。湧き水から流れる小川の泥粒底で枯葉が三枚から五枚重なったところに生息する。希少種のセスジガムシも湿原内の水溜りに生息する。アゴトゲヨコエビは湧き水に生息し、市域が埼玉県内の唯一の生息地である。オオウズムシの一種は石戸宿九丁(くちょう)の湧き水に生息する。
また、谷地の泉のみられる箇所には、サワガニの生息も確認されている。
(三) 蓮沼(はすぬま)に生息する水生動物
蓮沼によく見られる魚はヘラブナ、コイ、ウナギ、ナマズ、タイリクバラタナゴ、モツゴである。最近ではカムルチーは減少し、オオクチバスは増加している。
水生昆虫では カゲロウ目のフタバカゲロウ、トンボ目のクロイトトンボ、オニヤンマ、シオカラトンボが生息する。半翅目(はんしもく)はエサキアメンボ、ハネナシアメンボ、ミズカマキリ、コバンムシ、ミヤケミズムシが生息する。エサキアメンボは希少な種で、蓮沼のような低地にある古い池沼にのみ生息する。コバンムシは体長一ニミリメ —トル、緑色の虫であり、平成元年(一九八九)に蓮沼で採集されたのが埼玉県初記録であると同時に、関東地方でも唯一の生息地となった。また、トビケラ目のセグロトビケラとアオヒゲナガトビケラの一種も生息し、セグロトビケラは木の葉の切片や草の茎(くき)などを螺施状(らせんじょう)につないで筒巣を作って生活する。平野部で見られなくなったトビケラである。
湿地の動物
市の西部の北袋・高尾・荒井・石戸宿に至る台地には、樹枝状に侵食した谷地が発達し、いずれも荒川低地に向かって谷口を開いている。これらの谷地には、台地斜面または谷底から湧(わ)き水がみられる。いずれの湧き水も水量は微(わず)かであるが、冬季も湧出し谷地全体を潤(うるお)して、水田稲作や湿地性の動物の生活を確保している。稲作が盛んだった昭和三十年ごろまでは、場所によっては強力な農薬の使用が、生息動物に対して脅威(きょうい)を及ぼしたと想像されるが、幸いなことに生活雜排水の流入がほとんどないので、大宮台地の他の地域のような潰滅的(かいめつてき)な打撃を受けないできた。しかし、昭和末期から平成初期に廃棄物の埋め立て地とされた谷地が石戸宿・高尾などに数か所あり、そこは環境が悪くなって生物の回復は望めない。
首都圏を中心に、関東地方の開発が進んだ地域では、絶滅したと思われる動物が多い。しかし、埼玉県が実施した最近の荒川調査や、埼玉昆虫談話会の石戸宿の昆虫調査、市史編さん室の自然環境調査などにより、市西部の斜面林に囲まれた低湿地をよりどころとして、現在も生存し続けている動植物が数多く発見され、この事実は周囲の市町はもちろん、学会からも注目されている。台地上の雑木林や、谷地周辺に発達した斜面林とともに、市西部の低湿地は貴重な自然環境として、永く保全されることが市民自然愛好家から要望されている。
(一)脊椎動物(せきついどうぶつ)について
ほ乳類

写真8 ホンシュウカヤネズミの巣

ヨシ原などの広い湿地草原に住み、イネ科植物の葉を巻いて直径一五センチメートルほどの球状の巣を作るホンシュウカヤネズミが石戸宿の湿原にかなりよく見られる。日本で一番小さな暖地性のネズミである。湿原の東屋(あずまや)付近および一夜堤の近くが特に目立つ。赤堀川沿いの休耕田に発達したヨシ群落にも多数生息していることが確認されている。
本来は湿地性ではないのに 生息地を追われて比較的自然の残っている湿地帯でみられるものに、ホンドイタチがいる。荒井・高尾・宮岡・石戸宿のほか赤堀川・谷田用水付近でも見ることができる。
鳥類
湿地および池沼・水田にはオオヨシキリ、セッカ、コサギ、カイツブリ、バン、ヒクイナ、タマシギ、カルガモ、カワセミが生息し繁殖(はんしょく)している。そのほか、サギ類ではアオサギ、チュウサギ、ダイサギ、アマサギ、ゴイサギが見られ、アカガシラサギ、ササゴイ、ヨシゴイも観察されている。
ガンカモ類ではオナガガモ、コガモ、マガモが、シギチドリ類ではタシギ、ヤマシギ、イソシギ、クサシギ、ケリ、タゲリなどが見られる。
湿原上を飛ぶ小昆虫を食べにツバメ、ショウドウツバメ、アマツバメが飛来するし、餌(えさ)を探しにきたワシタカ類のサシバ、ノスリ、ツミなどや、ハヤブサ類のチョウゲンボウも姿を見せる。特に石戸宿付近の斜面林に囲まれた湿原と池沼は、バードウォッチングの適地となっている。
両生・爬虫類(はちゅうるい)
爬虫類では、シマヘビ、ヤマカガシ、アオダイショウが生息する。昭和二十年ごろまではマムシがでて、まれに被害を受けたはなしが残っていたが、最近は全く姿を見せず絶滅したものと思われていた。しかし平成五年(一九九三)の市史編さん室の調査により、その生息が確認された。
両生類ではカエル類がかなり多く、アズマヒキガエル(ガマガエルのこと)、アマガエル(林や草原にもいる)、ニホンアカガエル、トウキョウダルマガエル(昔はトノサマガエルという名前で呼んだもの)、ウシガエル(北アメリカ原産の帰化動物、食用蛙と呼ぶ人が多い)、ツチガエル(イボガエルのこと)、シュレーゲルアオガエルの七種が生息する。アズマヒキガエルとニホンアカガエル以外は五~七月が繁殖期(はんしょくき)で、各地で鳴き声を聞くことができる。
尾が長く腹側が赤いイモリは、昭和二十年代までは市東部を流れる赤堀川などに見られたが、今は絶滅した。市西部の湧(わ)き水から流れ出る小川はイモリの生息適地と思われるが、地元の人は昔から見たことはないという。
(二) 無脊椎動物(昆虫類)
宮岡や石戸宿の湿原と池沼を生活の本拠としている昆虫は種類が多い。そのなかから、代表的な種を挙げると次のようになる。
甲虫類(鞘翅類(しょうしるい))
ゲンゴロウ類は、小型のツブゲンゴロウ、ヒメゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、キベリクロヒメゲンゴロウ、ゴマダラチビゲンゴロウが生息している。最も大型なゲンゴロウは、絶滅して今は見ることができない。
中型種ではオオイチモンジシマゲンゴロウが昭和六十年(一九八五)八月に石戸宿で三個体も同時に採集され、昆虫関係者から注目された。
ゲンゴロウ頰に似たガムシ類は、キイロヒラタガムシ、トゲバゴマフガムシおよび、全国的に局部的分布を示し稀種(きしゅ)とされているセスジガムシが、昭和六十年六月に石戸宿で二個体が採集された。
ホタル類では、昭和初期まで生息したゲンジボタルはすでに絶滅し、現在生き残っているのは小型のヘイケボタルである。今後、湿地の保全を実施すれば生存し続ける可能性がある。
蝶・蛾(が)類(鱗翅類(りんしるい))
市の東部および西部の低湿地に自生するハンノキには、その葉を食べて育つミドリシジミがいる。この蝶は埼玉の低地の原風景をなすハンノキ林に特有の美しい蝶で、埼玉の緑と清流のシンボルにふさわしいとして平成三年(一九九一)十一月十四日(県民の日)に「県の蝶」に制定された。ハンノキには大型で青白色のオナガミズアオというヤママユガ科の蛾もつくが、これも石戸宿に生息する稀種である。
低湿地に特有の蛾ではヨシツトガ、ニカメイガ、ニカメイガモドキ(埼玉県での発見例はいまのところ市域のみ)、シロツトガ、ツマグロキヨトウ、ノヒラキヨトウ、テンオビヨトウ、マエホシヨトウなどが生息している。これらのほか湿地性で全国的にみて稀な蛾が二種発見されている。群馬・茨城・新潟の三県で発見されたイチモジヒメヨトウが、昭和六十年(一九八五)五月十八日に石戸宿で採集された。北海道と茨城県菅生沼(すごうぬま)および埼玉県所沢市三(み)ヶ島(じま)が既知産地のハスオビアツバは、昭和六十年六月二十二日に石戸宿で採集された。
半翅類(はんしるい)
マコモ、ヨシなどが生える湿地の浅い水辺にはかつて「風船虫」と呼ばれたミズムシ類が多い。昭和二十年ころまでは、夥(おびただ)しい数のコミズムシ類が灯火に飛来した。この虫を水を満たしたコップか湯呑みに放し、小さくちぎった紙片を入れる。底に沈んだ紙にコミズムシが乗って一緒に浮かんで来るのをみて楽しむ習慣があった。クロチビミズムシ、ハイイロチビミズムシ、ミゾナシミズムシ、アサヒナコミズムシ、ハラグ口コミズムシ、エサキコミズムシ、コミズムシが採集されているが、いずれも極(ご)く小型な昆虫で専門家でないと判定は困難である。
アメンボ類ではヤスマツアメンボ、エサキアメンボ、ババアメンボのような分布上注目に値する種や、ナミアメンボ、ヒメアメンボ、オオアメンボなどが採集された。
大型種ではタイコウチ、ミズカマキリ類は生息するが、タガメは絶滅した。
トンボ類
関東地方の平野部で稀少なナゴヤサナエ、サラサヤンマ、ネアカヨシヤンマ、ホンサナエが、また各地
で減少しているアオヤンマ、ヨツボシトンボ、クロスジギンヤンマ、オオモノサシトンボが生息する。また、高尾宮岡の湧水地にはダビドサナエの生息が確認された。

写真12 フシキキシタバ

写真9 イチモジヒメヨトウ

写真13 カノコガ

写真10 ハスオビアツバ

写真14 ミドリシジミ

写真11 オナガミズアオ



写真15 ネアカヨシヤンマ

写真16 カトリヤンマ

写真17 オオイトトンボ


直翅類(ちょくしるい)
湿地性の種では、コバネササキリ、ヤチスズ、エゾスズ、キンヒバリ、ケラ、トゲヒシバッタ、コバネイナゴが多産する。石戸宿のように多様性に富んだ自然環境の地域は、多くの種を同時に観察するのに適している。例えばササキリ類についてみると、ヨシ群落など湿地の草むらにはコバネササキリ、やや乾燥した荒れ地のチガヤ群落にはオナガササキリが、この両者の中間的な湿り気(乾きぐあい)のあるイネ科の雑草の草むらにはウスイロササキリが、そして周辺の雑木林にはササキリが生息している。
このような環境による住み分け現象は、各種の昆虫類で観察出来る。

写真18 コバネイナゴ

写真19 ノミバッタ


<< 前のページに戻る