北本市史 通史編 原始

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第1章 火山灰の降る中で

第1節 北袋の崖面から

九州から飛んできた火山灰
場所の異なる赤土の崖で、それぞれの層を比較したり、時間的な新旧を判断することはとても難しい。たとえ火山灰を供給する火山が同じでも、特徴となる層(鍵層)(かぎそう)がない場合も同様である。ところが、広い範囲に降下し、しかもその降下した年代がわかっている火山灰をはさんでいれば、そうした比較が可能となる。このような条件を充たした火山灰を広域火山灰という。

写真2 ATの火山ガラス 行田市

中の山古墳(埼玉県立さきたま資料館提供)

市内では、立川ローム層中の黒色帯(こくしょくたい)のすぐ上に始良丹沢火山灰(あいらたんざわかざんばい)(AT)がみられる。これは約二万一〇〇〇年から二万二〇〇〇年前に大噴火を起こした鹿児島湾北半部の始良カルデラの噴出物で、その降下範囲は青森県にまで達している。武蔵野ローム層を堆積させた箱根火山が一〇万年以上、立川口—ム層を堆積させた古富士火山が八万年以上噴火しつづけた噴出量に匹敵する最大級の噴火であった。始良丹沢火山灰の特徴は、発泡度(はっぽうど)の高い扁平型(へんぺいがた)の火山ガラスを大量に含んでいる点で、 市内の崖(がけ)で黒色帯の上を注意深く観察すると、太陽に照らされてキラキラと光るので識別できる(写真2)
広域火山灰には、このほかに御岳(おんたけ)第一軽石層(Pm—1)・東京軽石層(TP) ・アカホヤ火山灰(Ah)などが知られ、最近では洪積世最終末ごろの立川ローム最上部のガラス質火山灰(UG)が確認されている。これらを活用することで、遺跡間の層位や寒冷植物を含む層位などの対比研究が可能となり、考古学のみならず火山学・年代学などにも大きな進歩をもたらした。まさに時を伝える鍵層といえるだろう。




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