北本市史 通史編 原始

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第2章 豊かな自然と共に

第3節 台地の恵み

縄文家族の食料事情
私たちの食事は、活動のエネルギーを裏付けるカロリーがあること、健康状態を維持するに足るだけの栄養がバランスよくあること、満腹までいく必要はないが適度の量的充足感があること、視覚的美しさやおいしさ感があることが必要である。縄文人にとって視覚的美しさや満腹感は必要でなかったであろうが、健康に生きていく上でカロリーや栄養のバランスは必要であった。野生食料だけで生活するのに、ー年間でどれだけの食料が必要だろうか。小山修三(こやましゅうぞう)の研究(『縄文時代』中公新書ー九八四年)によれば、五人家族を仮定して一年分の食料を計算すると、デンプン類四三・三キログラム、堅果類(けんかるい)ー二ハ・七キログラム、魚介類(ぎょかいるい)七六三・九キログラム、獣類ー二三・〇キログラム、鳥類五・五キログラム、野草類一六五・三キログラム、果実類二・七キログラム、キノコ類ーー・ーキログラムが必要である。具体的な食品としては、クズかワラビが約四斗、クリ、卜チ、ナラなどの木の実が一・三トン、ウグイ、ハエ、アユなどが二〇〇〇匹、イノシシ、シ力がー〜二頭、ヤマドリが四〜六羽、あとはタケノコ、ゼンマイなどを適当に利用すれば食生活上は充分である。
実際にそれだけの食料を確保することは可能だったろうか。堅果類については、いくつかの種を利用すれば採集可能期間がー〇〇日以上になるので、一日あたりとしては約一三キログラムを採集すればよい。一平方キロメートルあたり約六五トンの収穫が見込めるので、一家族分ー・三トンはその一部を利用するだけである。しかし、魚介類をー日平均二キログラムという大量採集は大変困難であったことが予想されるのである。特に海進時ならばともかく、内陸漁撈(ぎょろう)では困難であったろう。

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