北本市史 通史編 原始

全般 >> 北本市史 >> 通史編 >> 原始

第2章 豊かな自然と共に

第1節 狩りと採取の縄文時代

土器の発明
縄文時代の幕開けは、土器の発明をもって始まった。旧石器時代に続く縄文時代は、ヨ—ロッパの時代区分で言えば新石器時代である。世界史的に見ると、土器の出現は農耕や牧畜(ぼくちく)と共にあり、新石器時代の特徴的な文物(ぶんぶつ)として重要な発明である。日本では土器の発明が大陸より早く、農耕が大陸より遅れて始まるという少し変則的な発達をしたのである。
水を含むとドロドロになる粘土は、乾燥し、火熱を受けると堅く焼き締(しま)り、水にも溶けず、火にかけても容易には壊れなくなる。イギリスの考古学者G・チャイルドは、土器作りを「人間が始めて応用した化学知識」と意義づけている。縄文土器は世界で最も古い土器であり、最初に化学知識を応用した人類が縄文人なのである。
粘土が焼けると堅くなるということと、粘土で形を作ることのどちらを先に習得したかは目下(もっか)のところ知るすべはない。旧石器人達はすでに火を使っており、数万年の蓄積の中で<粘土が焼けると堅くなる>という知識が先行したことであろう。しかし最初に粘土で器を作った栄誉(えいよ)は子どもたちにあげてもよいかもしれない。泥んこ遊びが子どもの世界共通の遊びであるならば、泥で器を作ったのは子どもたちかもしれないからだ。いくつもの偶然が重なり、粘性の高い土で作られた器の類が火に投入され、焼かれ、水を入れても崩れないことを発見し「あれ、これは便利だぞ、もっと大きな器を作って焼いてみよう」と誰かが考え、そうして何度も何度も試行錯誤(しこうさくご)を繰り返した結果、自在に縄文土器を作れるようになったのではないだろうか。<火>が人類に与えた重要なものが二つあり、その一つがこの土器である。もう一つは弥生時代になると大陸からもたらされる金属器である。<火>が生み出した土器は生活を営む中でどのような役割を担っていたのだろうか。土器は水を入れて火にかけても壊れないから、煮ることができる。煮ることにより食べられる食物がグーンと増えたはずである。スープも飲むことができるようになった。日持ちも良くなって食中毒がぐっと減ったことであろう。私たちの生活における鍋や釜と同じ役割を果たしたのである。今日も鍋焼きうどんの様に陶製の器を使って調理することが続いているし、また、広い意味でのセラミックスの用途はますます広がる傾向にあり、ハサミなどの利器にまで応用されている。今日のこれらの出発点が縄文土器なのである。

<< 前のページに戻る