北本市史 通史編 現代
第1章 戦後復興期の北本
第7節 民主化される教育
4 社会教育と戦後宗教界の変革
変革される宗教界日本の戦前の軍国主義の思想的な背景には国家と神道(しんとう)との強い結びつきがあるとしたGHQは、信教の自由、政治と宗教の分離の徹底をはかるためさまざまな措置を講じた。昭和二十年十月四日、「政治的民事的及宗教的自由に対する制限の撤廃に関する覚書」、いわゆる「人権指令」を発し、これまでの信教の自由を制限していた法令の撤廃が命ぜられ、治安維持(ちあんいじ)法や、宗教団体法は廃止の対象となった。次いで同年十二月十五日、一般に「神道指令」といわれる「国家神道、神社神道に対する政府の保証、支援、保全、監督並に弘布(こうふ)の廃止に関する覚書」が発せられ、国家と神社神道との徹底的な分離が断行された。同覚書の中に「本指令ノ目的ハ宗教ヲ国家ヨリ分離スルニアル、マタ宗教ヲ政治的目的に誤用スルコトヲ妨止(ママ)シ、正確二同ジ機会卜保義ヲ与へラレル権利ヲ有スルアラユル宗教、信仰、信条ヲ正確煮同ジ法的根拠ノ上二立タシメルニアル」として、国家神道の一掃と国家権力による宗教統制の排除を期し、公立学校における神道教育の廃止、神社神道に対する公の財政援助の禁止などを要求した。以後この二つの指令がもととなって、信教の自由と政教分離のための様々な措置が次々ととられることとなった。このため埼玉県でも教育部長、総務部長名で信教の自由と政教分離に関する趣旨徹底を各市町村長や各神社寺院教会主管者などに宛て矢継早やに発している。
しかし、GHQや政府からの神道指令、通牒(つうちょう)と言えども、従来の神道に基づく国民的慣習を簡単に変えることはできなかった。このため各地で神道指令違反が相ついだため、さらに政教分離の徹底のために、各市町村に通達が送られた。次の資料は、『市史現代』にも収録されているが、県からの通牒を部落会長に送り、部落会・隣組が神社への奉納金、祭典費を募集することの禁止を徹底させたものである。
部落会・隣組等による神道の後援及び支持の禁止につき通牒
昭和二十一年十二月五日
部落会長殿
部落会、隣組等による神道の後援及び支持の禁止について
神社への奉納金、祭典費等の募集や神符、守札等の頒布については、部落会・隣組等が絶体(対カ)に行はない様先般通牒して置きましたが、未(いま)だ此の趣旨の徹底を欠く向きもあり、なお種々違反の事例が起り昭和二十一年十一月六日附連合国最高司令部より重ねて此の事について禁止の指令があった旨其筋より通牒がありましたので、此の際特に各部落会長に於ては先般の通牒の趣旨が末端にまでよく徹底する様適切な措置を誰じ、今後一切違反が絶体(対カ)に起らぬ様厳に御配慮下さい。
尚左記事項の徹底に万遺憾(ばんいかん)ない様お願ひ致します。
右に依り通牒致します。
記
一 神社の寄附金、祭礼費等の募集や神符、形代(かたしろ)等の頒布に部落会、隣組等より援助、又はこれ等の機関を利用する事は、昨年十二月十五日附連合国軍最高司令部より発せられた『国家神道、神社神道に対する政府の保全、監督並びに弘布の廃止に関する覚書』中の第一条第一項に違反する。従って本年六月十二日附発せられた勅令第三一一号が適用されるから此の様な事は絶対にしないこと。
勅令第三一一号抜萃
第四条 この勅令に違反した者及占領目的に有害の行為を為した者は、これを十年以下の懲役(ちょうえき)若しくは七万五千円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
前項の者には情状により懲役及び痢金を併科することができる。
二 部落会等に於て種々の祝祭行事を行ふ場合は、如何なる場合でも神社等の祭紀と厳密に分離し誤解を生じない様にすること、尚其費用を神社等の名義を借りて居住者に対(絶脱カ)募集しないこと。
三 部落会隣組等の有力なる役職員で神社の総代や世話役等に就任することは誤解を生ずる虞(おそ)れが有るから之を避けること。
四 慣行の氏子(うじこ)区域による氏子組織を改め、新たに其の神社を崇敬する者を以て氏子崇敬者の団体を結成する様にすること。此場合前項の趣旨に基(づ脱カ)いて部落会等が之に援助を与へたり、又はその団体の基礎とならないやうにすること。
昭和二十一年十二月五日
北本宿村長代理助役木村卯之吉㊞
部落会長殿
部落会、隣組等による神道の後援及び支持の禁止について
神社への奉納金、祭典費等の募集や神符、守札等の頒布については、部落会・隣組等が絶体(対カ)に行はない様先般通牒して置きましたが、未(いま)だ此の趣旨の徹底を欠く向きもあり、なお種々違反の事例が起り昭和二十一年十一月六日附連合国最高司令部より重ねて此の事について禁止の指令があった旨其筋より通牒がありましたので、此の際特に各部落会長に於ては先般の通牒の趣旨が末端にまでよく徹底する様適切な措置を誰じ、今後一切違反が絶体(対カ)に起らぬ様厳に御配慮下さい。
尚左記事項の徹底に万遺憾(ばんいかん)ない様お願ひ致します。
右に依り通牒致します。
記
一 神社の寄附金、祭礼費等の募集や神符、形代(かたしろ)等の頒布に部落会、隣組等より援助、又はこれ等の機関を利用する事は、昨年十二月十五日附連合国軍最高司令部より発せられた『国家神道、神社神道に対する政府の保全、監督並びに弘布の廃止に関する覚書』中の第一条第一項に違反する。従って本年六月十二日附発せられた勅令第三一一号が適用されるから此の様な事は絶対にしないこと。
勅令第三一一号抜萃
第四条 この勅令に違反した者及占領目的に有害の行為を為した者は、これを十年以下の懲役(ちょうえき)若しくは七万五千円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
前項の者には情状により懲役及び痢金を併科することができる。
二 部落会等に於て種々の祝祭行事を行ふ場合は、如何なる場合でも神社等の祭紀と厳密に分離し誤解を生じない様にすること、尚其費用を神社等の名義を借りて居住者に対(絶脱カ)募集しないこと。
三 部落会隣組等の有力なる役職員で神社の総代や世話役等に就任することは誤解を生ずる虞(おそ)れが有るから之を避けること。
四 慣行の氏子(うじこ)区域による氏子組織を改め、新たに其の神社を崇敬する者を以て氏子崇敬者の団体を結成する様にすること。此場合前項の趣旨に基(づ脱カ)いて部落会等が之に援助を与へたり、又はその団体の基礎とならないやうにすること。
(『市史現代』NO.一九五より引用)
かくて、信教の自由に基づき宗教団体法が廃され、代わって同二十年十二月二十八日、ポツダム勅令として、宗教法人令が公布された。同令は、これまでの宗教団体に対する監督官庁の束縛(そくばく)や干渉を一切排除し、宗教団体は宗教法人としての設立登記のみで成立することとし、その規則の変更、総代等役員の選任・解任・財産処分などもすべて自由とされた。これにより神社は国家の保護から切り離され、信教の自由のもとに他宗教なみに存続することとなつた。そして市域の既存の神社や寺院、その他の宗教団体もすべて新法人に切り替えられ、新たな発足を余儀なくされた。しかし、宗教団体の設立が自由になったため、反面各都道府県は管内の宗教団体の事情を把握することが難しい状況になった。そのため埼玉県は、宗教団体の状況を把(つか)むために市町村を通じて、独自に宗教事情の一斉調査を行った。
宗教法人令はポツダム勅令であったため、講和条約で日本が独立を回復し、占領が終結した後の事を考える必要が生じた。昭和二十六年四月、宗教法人令にかわり、宗教法人法が公布された。同法は、法律という形式がとられ、内容上も、宗教団体について規定が設けられ、所轄官庁が認証するというしくみがとられることとなった。