北本市史 通史編 現代
第2章 都市化から安定成長へ
第2節 北本市の発足と市政の展開
3 「緑に囲まれた北本市」づくり
ふれあい村と自然学習苑農事試験場の跡地利用については、北本市の公園案、埼玉県のバードサンクチュアリ案があったことは先にふれた。
同地とその周辺は、大宮台地と台地を刻む浸食谷が入り込み、雜木林・湿地などがバランスよく残された地域であった。『埼玉県バードサンクチュアリ基礎調査報告書』(昭和五十九年実施)によれば、植物はシラカシ・クヌギ・コナラなどの常緑(じょうりょく)・落葉広葉樹(らくようこうようじゅ)をふくむ九十三科三二五種、ほ乳類はホンドキツネをふくむ四目六科七種、野鳥はタカやフクロウなどの猛禽類(もうきんるい)を含む十五目三十五科一二八種、また『寄(よ)せ蛾(が)記六十二号』によれば、昆虫類は一〇三一種に及ぶことが報告されている。この中で特に野鳥は、自然環境の多様性を反映して、森林・草原・湿地・河岸のそれぞれに生息(せいそく)する種類が確認され、バードサンクチュアリの最適候補地にあげられていた。
しかし農事試験場跡地がメディカルセンター用地に決定したため、昭和六十年二月北本市は、仮称「ふれあい村」を計画し、県に陳情(ちんじょう)した。それは同用地に隣接する石戸宿付近の水田・湿地など約三十ヘクタールに、メディカルセンター立地斜面の樹林地(約十ヘクタール)及び荒川河川敷を併せた一帯を、自然公園・自然学習園・スポーツ広場に整備しようという構想であり、おもな施設に次のようなものがあった。
- 自然学習館・・・・・・動植物の生態に関する資料展示・文献収集、学習会開催
- 体験学習農園・・・果樹園の設置、食糧作物の今昔園、農産物直売
- サイクリング道路(子供公園から荒川~秋(あき)ヶ瀬(せ)森林公園へ接続)
- 池・・・釣り場、ボート池、水生植物の育成・観察
- 花園・・・しょうぶ、あやめ、つつじ、菊等の育栽
- 市の木・市の花植栽
(昭和六十三年第四回定例会『北本市議会会議録』)
これに対して、埼玉県は「自然学習苑(えん)」構想をうち出した。それは面積四十ヘクタール(北里研究所より十ヘクタール 借用、 残りは民有地買収)とし、センターゾーンをはじめ、草地広場、水辺、雑木林、ピクニックゾーンなどを設け、自然保護センターや自然観察施設・センター広場・池などを整備するというものであった。
市、県による両計画とも、自然環境の保護、自然とのふれあいなど共通点も多いが、北本市の計画は遊園地型あるいは観光地型への志向が強く、自然保護を主目的にした県の計画とはズレがあった。そのため両者の折衝(せっしょう)が続いたが、市案の体験学習農園、サイクリング道路、釣り場・ボート池については調整できなかった。そして調整ができなけれぱ、北本市設置を断念するという県の意思表示があり、他方、自然破壊に対応するため、買収を急がねばならない事情もあって県案を諒承(りょうしょう)した。