北本市史 資料編 自然

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第4章 北本の気候

第1節 北本の気候的位置

北本市、あるいは埼玉県の気候を論じる場合、行政区界はあまり意味がない。そこで、ここでは関東地方を視界にいれて、メソスケールで埼玉県あるいは北本市の気候を論じることとする。資料としては一九八二年、一九八五年の観測所気象年報(いわゆるアメダスデータ)を用いた。
図1は関東平野における冬の日最低気温(月平均値)の分布を示している。記録を得た一九八五年一月は平年より一度C前後低温の寒い冬であったが、冬型気圧配置の日が多かった。

図1 関東平野の冬の日最低気温分布

(単位は度C、1985年1月)

図2 関東平野の夏の日最高気温分布

(単位は度C、1985年8月)

分布図には、太平洋沿岸にそって〇度C以上の暖温域が分布し、東京湾の影響は埼玉県南部まで温暖にしている。一方栃木県日光地方、群馬県田代・草津地方・埼玉県秩父地方が低温域となっている。北本市は山岳地方ほど低温ではないが、内陸のやや低温な地域に位置しているといえる。
同じく関東平野の夏の日最高気温(一九八五年八月の月平均値)の分布を示す(図2)。この年の夏は記録的な猛暑で、月平均気温が場所によっては一度C近く高いこともあって、夏の例としては若干問題点を含むが、夏型の気圧配置はよく出現している。関東平野で最も高温な地域は、平野中央部の埼玉県東部・北部、そして群馬県の東部である。北本市はもちろんこの地域に属し、高温域の中心に近い所に位置しているから、内陸型の暑さが厳しい夏の気候であるといえる。栃木県北部、群馬県北部・西部、そして埼玉県西部の山岳地域が低温域となっている。
埼玉県の降水はいわゆる表日本式気候を示す降水パターンとなっている。すなわち冬季に晴天の日が多く、降水量は少ない。関東平野における年降水量の分布を一九八二年を例にとって概観する(図3)。この年は梅雨明けが遅れて短い夏であった。七月に豪雨があり、また台風は二回上陸している。分布図によれば、最も少雨地域は群馬県中央部から東部の平地であり、次いで茨城県中央部、埼玉県北部から東北部にかけてが雨の少ない地域となっている。一方多雨地域は栃木・群馬・神奈川各県の山岳部と、埼玉県西部から西南部の山岳地域である。これらのうち冬季の降水は埼玉県では極めて少なく、一月には越谷・三峰・飯能でわずかな降雨が記録された程度である(図4)。

図3 関東平野の年降水量の分布

(単位はセンチメートル、1982年)

図4 関東平野の冬の降水量の分布

(単位はミリメートル、1982年1月)

風向については冬季と夏季それぞれ一か月間の最多風向を基にして、関東地方の風向を流線図で示した。したがって以下の図はある日の実際の風向を示しているのではなく、冬季の一般的風向の傾向を示すものである。
一九八二年一月を例にとって、冬季の最多風向を示す(図5)。これによれば埼玉県北部は赤城山方面からの西北西風(いわゆる赤城おろし)が卓越し、県南東部ではここから分流した北風が卓越している。埼玉県秩父地方には山梨県側から関東山地を越えてくる南西風が認められる。この山越えの風は東京・神奈川でも西ないし北西の風として認められる。北本市は赤城おろしが北風に分流するあたりに位置している。
夏季の風向は夏型の気圧配置が多く現れた一九八五年八月の例を流線図で示した(図6)。埼玉県の平野部では東京湾からの南風が卓越している。北本市もこの地域に該当する。一方県西部の秩父地方から群馬県の南西部にかけては、関東山地へ向かうような東風が卓越する。

図5 関東平野の冬の卓越風向

(単位は度C、1982年1月)

図6 関東平野の卓越風向

(単位は度C、1985年8月)

埼玉県内の気候地域区分は、以下のとおりである。
埼玉県を地形区分すれば、山地、丘陵、台地、低地という地形要素で構成されている。さらに東京湾、あるいはその他の海岸からの距離や地表被覆の状態などが県内を異なる気候にしている。
『埼玉県の気候』(熊谷気象台一九七五年)によれば、埼玉県内の気候地域は以下の四地域に区分されている。
◦ 少雨高温・・熊谷・羽生・栗橋
◦ 平雨高温・・入間川・所沢・狭山・川越・大宮
◦ 多雨冷涼・・浦山・影森・秩父
◦ 少雨冷涼・・中津川
前記の区分は雨と気温によって気候地域を区分したものであるが、さらに検討を加えるならば以下のことを考察する必要がある。
1 雨と気温以外で人間や生物にかかわりの深い気候要素についての検討。
2 それらの気候要素の季節や時刻による変化を知る。
3 各気候要素の分布や気候地域の境界を調べる。
4 地域の風土性に適した、特徴ある気候地域の設定をする。
そこで、資料が不完全ながら、埼玉県を以下の六地域に区分した。
a 夏高温で、年降水量が少なく、冬おろし風の吹く地域―県南東部の平地
b 冬暖かく、海の影響を受けている地域―県南東部の平地
c その他、冬北から北西のおろし風の吹く地域―県中部から東部の平地
d 関東山地を越える風の卓越する、多雨で冬に冷涼な地域―県西部の山間地
e 特に夏の多雨で特徴づけられる地域―県南西部の山間地
f 一年中(特に夏)ごく低温で、雪をみることが多い地域―県西部の標高の高い山地
そこで、前記の分類によれば北本市の気候的な位置は分類aに該当する。すなわち内陸性で、夏は気温が高く、冬は乾燥した北西のおろし風が卓越し、年降水量は関東地方の中では少ない地域である。

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