北本市史 資料編 自然

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第5章 北本の水

第2節 地下水

2 地下水利用の状況

地下水の利用状況
地下水利用を用途別にみると、水道用・建築物用・エ業用・農業用などがある。水道用水は通常上水道として利用される水であるが、ここでは一般家庭で所有する浅井戸(自己水)と公共水道を含めて概観する。建築物用水は建物の冷暖房・水洗便所・洗車用などに、工業用水は工場などで製品をつくりだすために必要な水の利用である。農業用水は農業生産に必要な水であるが、この水はかんがい期間を中心に季節的な利用形態をもつ。農業用の場合、取水後において一部は蒸発散し、多くは地中に浸透して、再び地下水を涵養する役割をもつ用水である。
北本市における過去の一般家庭用の水は、ほとんど浅井戸による不圧地下水に頼っていたと考えられる。一般に都市域の生活用水は、公共水道が普及してしばらくは井戸水と水道水を兼用しているものの、その後井戸水はほとんど利用されなくなる傾向が強い。しかし、北本市においてはすでに公共水道が普及しているにもかかわらず、現在でも飲料水や雑用水および水道の補助用水などに不圧地下水の利用がなされている。
昭和五十九年度に市史編さん室が調査協力員に依頼して、井戸の所在調査を実施した結果とその後に行なった現地調査で得た資料から、一般家庭で日常使用している浅井戸数は市内で四〇〇井以上になることが明らかになった。しかし、その使用水量は不明である。
確かに地下水利用は以前より減少傾向にあるが、既存集落の多くの家庭での浅井戸利用とその存在は見逃せない事実である。
次に北本市における最近の公共水道用・建築物用・工業用の三用途に利用している地下水の揚水量をみると、表4に示すごとくである。この表には北本市の周辺市町のそれらも比較のためあげてある。北本市での一日当りの平均揚水量は、三用途の合計で一万三〇〇〇から一万八五〇〇立方メートル、用途別には水道用が最も多く、全使用量の七〇~八〇パーセントを占めている。北本市に隣接する鴻巣市・川島町・吉見町などでも水道用としての地下水利用が最も多い。これに反して、桶川市・上尾市では工業用としてのそれが最も多い使用水量となっている。
表4 北本市とその周辺市町の地下水揚水量  (単位:㎥/日)
市町名1983年 1984年1985年1986年1987年
水道用建築物用工業用 計 水道用 建築物用工業用 水道用 建築物用工業用 水道用 建築物用工業用 水道用 建築物用工業用 計 
北本市 10,8103,1411,62415,57513,1273,3991,93518,46110,9461,8251,81214,5839,6841,873 1,55013,10713,1611,7731,65016,584
上尾市9,39216,8617,16128,23912,2341,65616,59230,48211,7201,57416,28529,57913,4791,46216,05130,99215,8251,25816,2573,9340
桶川市05,1296,26311,39206,1644,98111,14503,6194,9378,5564,2194,7508,96903,0534,2797,332
鴻巣市13,9944325,73320,15912,4764435,74618,66511,628910584318,38112,4673545,58718,40814,277379471219,368
与野市6,1420061425,256005,2564,946004,9465,504005,5045,877005,877
蓮田市6,3444128,00414,7608,2644517,67716,3929,5714557,15817,18411,1064057,27518,78611,4034027,09718,902
伊奈町4,241963174,6544,3211192324,6724,1291042674,5004,134533074,4944,460755055,040
菖蒲町3,661108034,4744,48947335,2263,73807884,5263,89607664,6624,25307434,996
川島町6,038169326,9866,882171,0937,9926357161,1237,4966,074168716,9616,279166666,961
吉見町5,90333236,2296,53333856,9214,96634815,4504,25834504,7114,4693727,5199

(埼玉県地盤沈下調査報告書、1988年から作成) 

 
表4 北本市とその周辺市町の地下水揚水量  (単位:㎥/日)
市町名1983年 1984年1985年
水道用建築用工業用 計 水道用 建築用工業用 水道用 建築用工業用 
北本市 10,8103,1411,62415,57513,1273,3991,93518,46110,9461,8251,81214,583
上尾市9,3921,68617,16128,23912,2341,65616,59230,48211,7201,57416,28529,579
桶川市05,1296,26311,39206,1644,98111,14503,6194,9378,556
鴻巣市13,9944325,73320,15912,4764435,74618,66511,628910584318,381
与野市6,142006,1425,256005,2564,946004,946
蓮田市6,3444128,00414,7608,2644517,67716,3929,571455715817,184
伊奈町4,241963174,6544,3211192324,6724,1291042674,500
菖蒲町3,661108034,4744,48947335,2263,73807884,526
川島町6,038169326,9866,882171,0937,9926,357161,1237,496
吉見町5,90333236,2296,53333856,9214,96634815,450
市町名1986年1987年
水道用 建築用工業用 水道用 建築用工業用 計 
北本市 9,6841,873 1,55013,10713,1611,7731,65016,584
上尾市13,4791,46216,05130,99215,8251,25816,25739340
桶川市4,2194,7508,96903,0534,2797,332
鴻巣市12,4673545,58718,40814,2773794,71219,368
与野市5,504005,5045,877005,877
蓮田市11,1064057,27518,78611,4034027,09718,902
伊奈町4,134533074,4944,460755055,040
菖蒲町3,89607664,6624,25307434,996
川島町6,074168716,9616,279166666,961
吉見町4,25834504,7114,46937275,199

(埼玉県地盤沈下調査報告書、1988年から作成) 

  図20は、北本市とその周辺市町村における昭和四十四・四十五年頃の地下水利用実態を示したものである。この当時の北本は町制時期であったが、その使用水量は日平均一万立方メートル未満で、生活用水より工業用水の方が多く、建築物用水はゼロであった。

図20 1970年頃の用途別地下水利用量

(建設省関東地方建設局、1987年より作成)

現在、北本市の上水道は、桶川北本水道企業団からの給水に依っている。その水源は当初すべて地下水であったが(図21)、昭和五十四年度から埼玉県広域第二水道事業からの受水が決定して、水源は地下水から地下水と県水へ変更された。現在の地下水揚水量は水道総配水量の三〇~四〇パーセントに減少している(表5)。建築物用の地下水揚水量は昭和五十八・五十九年には日平均三〇〇〇立方メートル以上であったが、六十年代に入ってからは二〇〇〇立方メートル以下に減少している。工業用のそれは、市域に水を大量に使用する大口企業が存在しないこともあって、日平均一五〇〇から二〇〇〇立方メートルの水量で推移している。

図21 水道水深井の位置

(桶川北本水道企業団資料より作成)


表5 水道水源井の諸元と揚水量
浄水場
井戸番号  
所 在 地 さく井
年月 
標 高
(m) 
深 度
(m) 
昭和63年の年間揚水量(㎥/年) 昭和63年の日平均揚水量(㎥/年) 昭和63年稼動日数(日) 
石戸下石戸下字久保692 昭和42.5 22.0 250 415,890 1,136 288 
下石戸下東原1920 43.5 24.0 238 431,550 1,179 360 
北本宿下原168 44.6 25.5 350 549,830 1,502 365 
下石戸下字久保634 45.6 24.0 294.5 448,440 1,225 330 
下石戸下字蔵引2307 46.6 20.0 280 119,870 328 189 
15 下石戸下字蔵引705-38 51.9 20.0 316 413,230 1,129 297 
中丸中丸6 —83 46.8 21.0 300 78,930 216 152
中丸6 —83 47.8 21.0 300 237,260 648 240
中丸8 — 319 48.2 18.0 300 598,240 1,635 306
10* 中丸9—194 48.8 18.0 300 000
11 中丸9 — 298 49.5 17.0 314 567,540 1,551 341
12* 中丸4 —140 49.5 20.0 300 000
13 中丸7 — 648 49.8 19.0 300 655,900 1,792 332
14 中丸6—18 52.3 20.0 300 530,340 1,449 341
川田谷 16* 桶川市川田谷5846 53.3 17.3 300 000
17* 桶川市川田谷字天沼5198-1 53.2 20.3 305 000

(桶川北本水道企業団資料より作成)
  *No.10井は水位測定用として埼玉県へ貸与中
  No.12井は昭和55年7月8日から休止
  No.16 ・17井は県水受水のため使用せず(非常時に使用) 


一方、北本市域では地下水利用の特色として農業用のそれが多いことと比較的浅い井戸が多いことがあげられる。農業用としての地下水利用は、陸田の発達とその分布にあるため、主要水源の実態を把握することが重要である。
北本市では昭和五十九年に農業用地下水利用井戸調査を実施した。この調査結果は図22・表6に示したが、農業用井戸数は七二二井で、受益面積は二万一九三五アールになる。また、昭和六十年には全国一斉に農業用地下水利用実態調査が、農林水産省構造改善局によって実施され、北本市においてもその実態調査が基準日の昭和六十年九月一日を対象に行われた。その資料によると、北本市域の農業用井戸数は浅井戸(深度二九メートル以浅)および深井戸(深度三〇メートル以深)で、それぞれ五五八井、九二井である(表9-19-2)。
井戸の設置年次は浅井戸の約七〇パーセントが昭和三十年代後半から四十年代にかけてで、深井戸の約六〇パーセントは昭和五十年代以降である。

図22 農業用・水道用の井戸分布

(北本市資料より)


表6 農業用井戸数と受益面積 (1984年9月10日)

 
地区名井 戸受益面積 a
北中丸東73井2,263
 〃 南21596
 〃 西331,002
 〃 北552,064
北本宿9288
山中10313
花ノ木13468
常光別所431,390
古市場14476
宮内 上712,043
 〃  下381,078
東間  14152
 〃  22210
 〃  37280
深井  130756
 〃  224566
 〃  320600
小計46714,545

 
地区名井 戸受益面積 a
二ツ家595
下久保13336
台原471,289
301,144
上の上平17474
北原12244
堀ノ内116
石戸宿26634
横田120
1110
東原4265
馬場115
荒久保210
荒上手5138
宮岡6290
河岸7208
丸山13521
カラスの木8143
北袋12493
谷足33685
城中266
勝林674
日ノ出3120
小計2557,390


井戸の分布状況をみると、浅井戸はJR線東側地区に総数の六八パーセントが集中している。また、総数の二一パーセントに当たる一一六井は市域南東部の中丸地区に集中し、次いで宮内地区、深井地区、朝日地区の順となり、これら四地区をあわせると総数の五七パーセントの三一五井になる。深井戸のそれは、高尾・下石戸地区の西側地区に多いことが把握できる。深井戸の大部分は深さ一〇〇メートル以浅からの揚水である。このことは地形・地質状態のあり方にその要因を求めることができよう。
地下水の揚水量は日平均一〇から一ニ〇〇立方メートルの範囲にあるが、これらのうち、揚水量日平均二〇〇立方メートル以上が認められる井戸を地区別でみると、中丸地区にある。この地区は市域の水田・陸田分布の中心的な地域を形成しているとみられる。
地下水の年間利用日数とその依存度(利用度)をみると、年間利用日数七一から一ニ〇日間(三~四か月)が特に多く、総数の七八パーセントに当たる。したがって、市域の農業用地下水利用は、かんがい期の夏に集中し、かつ地下水の利用度も顕著にみられる傾向にある。農業用水としての地下水全量依存型の割合は、受益面積の九七パーセントになる。北本市における水田・陸田分布(図23)と地下水利用はよい相関関係にあるといえる。なお、こうした水田・陸田のかんがい水そのものの多くは、地下に還元され、再び地下水になることから地下水の最大の涵養源とみることもできる。

図23 1975(昭和50年)頃の水田・陸田分布

(北本市全域一般図より作成)

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