北本市史 資料編 自然

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第5章 北本の水

第1節 河川

1 荒川の概況と流水状況

北本市西端を南流する荒川は、奥秩父山地の主峰甲武信岳(標高二四七五メートル)に源を発し、秩父盆地から寄居を東流した後、関東平野に出て、熊谷市付近から流路を南へ転じて、鴻巣、北本、上尾、大宮、浦和などの市域西側を通り、川口市南東端から東京都に入り、荒川放水路を経て東京湾に注いでいる。荒川の流路全長は約一六九キロメートルで、その大部分の一四八キロメートルが埼玉県内である。荒川の流路は全国河川のうち十五番目に当たる長さを有している。
この流路に降水を流し込む地域が「流域」で、その広さを「流域面積」といい、荒川のそれは約二九四七平方キロメートルで、埼玉県全域の三分の二以上の面積を占めており、全国河川のうち十九番目に相当する面積を有する河川である(図1)。

図1 荒川流域図

(「荒川・自然」、1987年による)


荒川は河川勾配や堆積物および地形的な特徴などからみて、水源より寄居町までを上流部、寄居町から熊谷市間を中流部、熊谷市から河口までを下流部に大別することができる。荒川の北本市域区間は約五キロメートル程度であるが、この区間は荒川の下流部のうちでも上流側に位置しており、河川の底質は主に砂質から成っている。(図2)

図2 荒川本流縦断面

(「荒川・自然」、1987年による)
図には荒川本流の河川勾配と基盤岩の分布状況が示してある。これからいえることは、河川勾配は地形や基盤の地質によって大きく変化すること、いくつかの地点において遷急点(下流側で河川勾配が急に増して変化するところ)が認められることなどである。大きく河川勾配が変化するところは、入川上流の矢竹沢合流点付近、荒川村白川橋付近、川本町明戸から熊谷大橋付近である。河床や河原に露出する基盤岩は、川本町の明戸付近までであり、それより下流域では沖積層に厚くおおわれて基盤岩は全くみられない。
平野を流下する区間は、寄居町付近から東京湾河口までである。水源から河口までの平均的な河川勾配は約68分の1であり、 利根川のそれと比較すると、荒川の河川勾配は利根川(174分の1)の約2.5倍で急勾配となっている。


荒川は熊谷から下流部で、その名のように乱流や曲流を繰り返し、暴れ川であった。古くは和田吉野川・入間川流域の低地であったが、寛永六年(一六二九)伊奈半十郎忠治が久下村(現熊谷市)地先で荒川を締切り、瀬替え工事を実施して、和田吉野川・入間川筋へ合流させてから、現在の荒川水系が整備されてきた。荒川の瀬替えエ事以後、旧入間川筋の流出量は増加したため、特に合流点付近の川島領では洪水や冠水の被害が続出し、慶安年間(一六四八~五一)と弘化二年(一八四五)に川島大囲堤の修理増築がなされた。さらに明治四十年(一九〇七)、四十三年(一九一〇)と続いた大洪水を契機に、内務省直轄による河川改修工事が始められ、曲流部のショートカットや荒川放水路の開削が進められた。昭和二十二年九月のカスリン台風による水害後、荒川水系総合開発計画事業が実施され、その一環として昭和三十七年(一九六二)には秩父郡大滝村二瀬に県内最初の多目的ダム(洪水調節・防止、農業用水の確保、発電用水)、二瀬ダムついで大里郡寄居町に玉淀ダム(昭和三十九年)が完成して、荒川低地の大洪水はほとんどなくなった。
北本市の区間においても曲流部は多かったが、河川改修工事によって、流路は直線化されており、旧流路は三日月型の河跡湖となって河川敷内に残存している。
河川は陸水を導く水路であるため、そこを流れる水量、すなわち流量は重要な意味をもっている。河川の流量は河川水位と同様に流域の降水量によって決定される。したがって、流量は日変化、季節変化、年変化などをする。
荒川についての河川流量の長期的な記録は建設省の「流量年表」にある。これには荒川水系で三地点(本川の寄居、大芦橋、支川の入間川菅間)の観測記録が記載されている。表1は荒川本川の二地点における経年的な流況の平均値を示したものである。両地点とも豊水と渇水の差が著しい河川流況を示しており、年平均値としての河況係数(最大流量と最小流量との比)も大きい値を示している。こうした流況にあることは、荒川が暴れ川的な性格をもつことを意味し、加えて水利用の立場からは比較的利用困難な河川であることがうかがえる。

表1 荒川主要地点の流況
観測所 流量観測期間
(昭和・年)  
最大流量 豊水流量平水流量低水流量 渇水流量 最小流量年平均流量 年総量(×10⁶㎥) 
比流量 流出高 (㎜) 
寄居流 量
(㎥/sec) 
27 〜62 
62
5,512.04
527.13  
25.05
14.60  
14.88
8.48  
9.21
6.85  
4.93
4.82 
0.99
4.61  
26.01 
13.25
820.96 
0.98 
比流量
(㎥/sec/100㎢) 
27 〜62 
62
594.61
56.86 
2.70
1.57  
1.61 
0.91 
0.99 
0.74 
0.53
0.52  
0.11
0.50  
2.81 
1.43 
885.60
 450.78 
大芦橋流 量
(㎥/sec)
41〜62 
62
5,586.65
203.67 
20.44
10.57 
10.77
4.95  
6.27
3.06 
2.93
0.98 
0.15
0.73 
23.53 
10.01 
742.61 
315.65 
比流量
(㎥/sec/100㎢)
41〜62 
62
548.25
19.99 
2.01
 1.04
1.06
 0.49 
0.62
0.30 
0.29
0.10 
0.01
0.07  
2.31
0.98  
728.76 
309.76 

(流量年表、1989年版による)

*流域面積:寄居927.0㎢、大芦橋1,019.0㎢ *寄居の観測期間(27〜62)のうち、昭和28年と43年は欠測。
最大流量:ある期間内の瞬間あるいは時間の最大流量・値(日流最の岐大値ではない)。
豊水流量:1年で95日はこれより下ることのない流量値。
平水流量:1年で185日はこれより下ることのない流量値。
低水流量:1年で275日はこれより下ることのない流量値。
渇水流量:1年で355日はこれより下ることのない流量値。
最小流量:ある期間内の最小流量値(日流最の最小値ではない)。
年平均流量:1年で日流量の総計を日数で除した流量値。
年総量:1年間の日流量を合計した総流出量。
比流量:流域100㎢当りの流量値で、当該流域面積で除したもの。
流出高:年総量を流域面積で除した値で、mmの高さで表わしたもの。


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