北本市史 資料編 近代

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第4章 社会生活と文化

第1節 社会生活

5 衛生

289 明治四十一年(一九〇八)二月 石戸村で天然痘発生
  (『埼玉新報』明四一・二・ニ三)
   八十歳の老人も種痘す
         (石戸村天然痘発生の詳報)
北足立郡鴻巣町在石戸村大字高尾一三一番地農丑五郎三新男井亦六(一六)が天然痘に罹りたる詳報を記さんに▲患者亦六は昨年八月より親戚先なる東京本所区業平町一九一の八百屋営業岡野弥三郎方に手伝ひの為め寄留し居りたり、然るに本人は本月三日は旧正月の事とて親元なる石戸村に立帰りしに発熱し、加ふるに腰部に痛みを覚へたれば直ちに同村医師鈴木岩五郎氏に罹り療養中、本月七日に至り天然痘と確診するに至れり▲今其病源を調査するに本人の寄留地東京本所区業平町は目下天然痘の大流行地にて日一多数の患者の発生を見、為めに避病院に収容する患者は日に二三回に及び其度び寄留先の宅前を通行して患者を運搬したりとのことなれば、或は此等の辺より自然感染したるものにはあらざるか▲而して此届出に接するや村長は急速使を飛ばせ鴻巣分署と北足立郡役所に報告したれば、北足立郡役所より主任岩本郡書記・鴻巣分署長寺田警部・酒井巡査部長は時を移さず同地に出張し村長・助役と協力して部民を督励し予防方法を講じ、患者は直ちに同村隔離病舎に収容し同時患者並に其附近の消毒的清潔法健康診断を施行し、一面は一般村民の種痘を励行したり▲然るに同村は患者発生以前に於て既に種痘励行を計り痘苗二千五百人分を注文し、本月十二日より村費を以て接種することに手配付居りたれども其痘苗の着するを待つ猶予あらず大に心痛の折柄、本月八日午後鈴木衛生課長は痘苗を用意して同地に出張し徹夜同技師始め村医と共に患家の附近の種痘を済ませたり▲翌九日より引続き同村に三力所の種痘所を設置し医師二名を雇入れ全部村の負担を以て種痘の励行を為し、一昨十一日を以て全村三千五百有余人の接種結了せしめたるが、今之れが状況を記せば監督には岩本郡書記・酒井巡査部長を始め引続き滞在詰切り村長・助役と協力して大に励行し、一面未種痘者の一人もなきを計らん為め村長は衛生組合長をして毎戸に臨み督励せしめ、又受持星野巡査も日夜奔走したれば中には八十歳以上の老人すら杖に倚り又は人の手に引かれて種痘所に来り接種する有様にて同村始まりての大励行なり▲斯く手早く種痘を励行したれば如何に猛悪なる天然痘も其病毒を蔓延するの余地なかる可く、随って患者は一人にて撲滅に帰するに至るべしことなり▲尚ほ各町長も此際同村の如く急速種痘の励行を為し願くば五十歳以上と雖も普ねく種痘せしめたきものなり

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