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第2章 社会生活と親族

第5節 家と家族

2 家族員の役割

家族を構成する家族員には、それぞれの立場に応じた役割があり、家族生活はこれに基づいて展開される。
家族員の中で中心をなすのは家長(もしくは戸主)と主婦である。家長とは家を代表する者をいい、オヤジ、オトッツァンなどともよばれる。また、商店や裕福な農家ではダンナサマとよんだりした。一家を代表する者としての家長の責任は重く、家庭内にあっては生業のきりもりから家族内のあらゆる事柄に対する最終決定権を握り、また、対外的にはムラの会合、行事、冠婚葬祭には一家を代表して参加する。
一方、その妻はカアチャン、ないしオッカサンなどとよばれ、一家の主婦として家事一切の決定権を握っている。
子供の中では、長男をアトトリムスコないしソウリョウムスコなどとよび、家の継承者としている。家を継ぐ者としての長男は、それにふさわしい扱いを受けながら育っていく。出産においては、何よりも長男誕生が望まれるため、出産祝いは親戚、縁者を迎えて盛大に行われる。また、七五三の祝い、入学祝い等においても同様で、簡素に行われる次男以下とは差がある。その一方、長男は弟妹の世話をすることが務めとされている。幼少時にあっては、背におんぶして面倒をみ、また成人後においても何かと相談に応じるのである。特に往時のように兄弟姉妹の数が多いころは、長男のこうした役割は重責だった。
往時、嫁はもっぱら一家の働き手として位置づけられていた。家事一切の裁決は家長夫婦が握っているため、嫁はその指揮下で黙々と仕事に励んだのである。日常の家事においては、食事の支度や片つけはもちろんのこと、食卓の下座に座り、家族員のおかわりを世話するのも嫁の役割だった。
ところで、以上に述べてきた家族員の役割はそのまま、家におけるそれぞれの地位に応じたものといえる。この家族員の地位を表わす端的な例に食卓の座順がある。食事をするのは農家の場合イタノマで、イロリを囲んでのものだった。その際なるべく、家長は神棚を背にして座し東向きになるよう心がけたとされている(「東向きは家長の席」といわれている)。このため、家長以外の者が東向きに座ることはない。また、嫁は膳を盛ることが努めなので、台所にもっとも近いところに座っていた。ここで嫁は食膳の切りもりのほか、イロリの火の管理もしなければならなかったのである。家長と嫁の座順についてはおおよそ以上のきまりがあるが、その他の家族員については各家庭によって様々である。家長と嫁の座だけきめてあれば、あとはどうでもよいとする家もあれば、長男の座をきめてある家もある。なお、食事は家長がまず手をつけてから始めるものとされている。
また、風呂に入るにも順番があり、最初に入浴をするのはやはり家長となっている。そして、最後に入るのは嫁とされている。

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