北本市史 民俗編 民俗編一覧
第6章 衣・食・住
第2節 食生活
3 ハレの日の食物
ここでいうハレの日とは、年中行事・祭礼・婚礼・葬式など、普段の労働にかかわる日ではない、何か行事を行う日のことである。この日には、年中行事・信仰・人生儀礼の章を参照すればわかるように、市内でもさまざまな行事がとり行われ、さらに、普段の日とは違う食物も食べられる。これをシナガワリというが、シナガワリにはモチ(餅)・ボタモチ・赤飯・小豆飯・小豆ガユ(粥)・団子・マンジュウ・ウドンなどいろいろな種類のものがあり、麦を混ぜない米だけの飯というのもこのような日でないと食べられなかったのは、前にも述べたとおりである。シナガワリは次に掲げた表にみるように、そのハレの日により特定の食物が作られることが多いが、いくつかの食物を組み合わせて作る場合もある。さらに、その家によって多少違っている例もみられるが、これは麦飯における米と麦の混合の割合がそれぞれ違うことなどと同様である。この項では、ハレの日における食物を順に述べていくことにするが、その前に、複数の食物が作られる機会について、そのいくつかの例に触れておく。表1 ハレの日とシナガワリ
(主に荒井・高尾の事例を基に作成。ただし同地域でも、すべての家で下記の行事を行い、さらにこのような食物を作っているわけではない)
二百十日 二百二十日 | マンジュウ・ウドン | 正月三ヶ日 | 餅・雑煮・御飯・ウドン |
月 見 | マンジュウ・団子・野菜・果物 | 七 草 | 粥(ナズナや野菜を入れる) |
日待(祭礼) | 餅・赤飯 | セ チ | ウドン・煮物・オセチ料理 |
オカマサマ | 団子 | 鍬入れ | 雑煮・ウドン・混ぜ御飯 |
トウカンヤ | ボタモチ | 小正月 | 繭玉団子・小豆粥 |
タイシ粥 | 小豆粥 | ジオウサマ | 小豆御飯 |
師走八日 | ウドン | エビス講 | 御飯・魚・ウドン・ケンチン汁 |
冬 至 | カボチャ・ユズ | ショウジン | ウドン・煮物 |
大晦日 | ソバ | 天神講 | 五目飯・汁粉 |
摘田祝い | ボタモチ | 次郎のツイタチ | 赤飯・小豆御飯 |
サナブリ | ボタモチ・ウドン | 節 分 | 豆・福茶・混ぜ御飯 |
野上り正月 | ウドン・マンジュウ | 初 午 | スミツカリ・赤飯・団子 |
麦マキアゲ | ボタモチ・ウドン | 春祈禱 | 餅 |
ムギオシ | ウドン | 三月節供 | 餅(草餅・ひし餅)・御飯 |
蚕祝い | 御飯 | 彼 岸 | ボタモチ・団子・ウドン |
妊娠・出産 | 鯉・粥 | オシャカサマ | 甘茶 |
お七夜 | 小豆飯 | 春口待 | 餅 |
宮参り | 赤飯 | 五月節供 | 餅(柏餅)・御飯 |
クイゾメ | 御飯・小豆飯・ウドン | 浅間様初山 | マンジュウ・ウドン |
初誕生 | 餅・赤飯 | カンジン | 団子・ウドン |
見合い | ボタモチ・ウドン | ギオン | マンジュウ・ウドン |
結 納 | 赤飯・ウドン | 土 用 | 餅・マンジュウ・ウナギ |
御祝儀 | 赤飯・魚・ウドン | 石尊講 | ウドン・ボタモチ |
葬 式 | 団子・枕飯・御飯 | 釜の口開け | ボタモチ・マンジュウ |
四九日まで | 団子・ボタモチ・ウドン | 七 夕 | マンジュウ・ウドン |
盆 | ボタモチ・ウドン・団子・御飯 | ||
八朔の節供 | マンジュウ・ショウガ |
エビス講は正月と秋の二回あり、御飯・魚・煮物・ケンチン汁・ウドンなどを供える。エビス講の御飯は、エビスモリといって茶椀に山盛り一杯に盛って供え、それを下げてみんなで食べる。魚は尾頭付きでないと駄目だといい、サンマなどが多かった。魚屋が「エビス講のサンマを持って来た」といって売ったが、この日はサンマがよく売れるといっていた。また、何か生きた魚を供えることがあり、ある家では錦鯉や金魚を供えたことがあるという。サンマなどは食べてしまうが、生きた魚は池などに放しておいた。またこの日はエビス講ソバといい、ソバが正式なものだともいう。
盆は正月と同様に、数日間、三食ともシナガワリを作る。盆には「朝はマンジュウ、昼間はウドン、夜は米の飯にトウナス汁よ」といわれるが、このほかに煮物や小豆飯を食べる家もあった。送り火をたく日の朝には団子を作る。これをミヤゲダンゴといって、墓地まで持って行く。ウドンは、ショイナワといって幅が広いものも作って、これは盆棚につるしておく。御先祖様が土産を背負って行くための縄だという。
婚礼の席でのごちそうは、鯛の折り箱に煮物・キンピラ・テンプラ・赤飯・ウドンなど、さまざまなものがある。ウドンは一番最後に出るもので、これを食べるとオツモリ(終わり)になる。婚礼のときにソバは出してはいけないという。婚礼より前の見合いは娘の家で行うが、このとき、ボタモチ・ウドン・酒のさかなとしてテンプラなどを作る。出されたボタモチを男が食べると、娘を気に入ったことになるといった。また、結納の席にはウドンや赤飯などを作る。嫁が実家に里帰りする際に土産として持って行くものや、実家から帰ってくるときの土産にも、赤飯・マンジュウ・ボタモチなど、その時々に作ったものが用いられた。
図12 左膳(高尾)
写真14 トムライの膳