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第9章 年中行事

第1節 正月行事

4 六日までの行事

ナナクサガユ(七草粥)
一月七日をナナクサとかナヌカショウガツと呼び、朝七草ガユを食べる。七草ガユに入れるものは、大根・人参・牛劳・小松菜・里芋などである。いわゆる春の七草とは限らなかったし、家によって入れるものは達っていたが、七草とはナズナのことでナズナは必ず入れるという家が多い。タナサガシしてさげた里芋や大根などをいれる家もある。
ナナクサガユを作るのもトシオトコの役目で、七草を刻むのにも作法があった。
下石戸上のある家では、一月七日の早朝トシガミサマの下で、年男が前の晚用意しておいたナズナをまないたの上に乗せ、包丁でトントンと音が響くように刻みながら「ナナクサナズナ、トウド(唐土) の鳥と日本の鳥が、渡らぬ先に、ストトントンヨ」と大きな声で唱えた。これをすることによって豊作になるのだが、大きな声で歌わないと、効果がないといわれていた。刻んだ七草を入れてカユをつくり、神様に供えて人々もいただいた。
石戸宿のある家では、年男が七草を「ナナクサナズナ、トウドの鳥が渡らぬ国に、ストトントン」と唱えながら刻んだ。七草というのはナズナのことで、これに里芋・人参・ゴボウ・ホウレンソウ・大根・小松菜を入れて、醬油でうすく味つけする。餅を入れる家もある。できた七草オジヤは、年男が大神宮、床の間、荒神様、恵比寿様、氏神様に供える。七草の日までは、汁かけ御飯を食べてはいけないといわれていた。
荒井のある家では一月七日の朝、年男がナナクサガユを作って、神様に上げ家の人もいただく。七草がゆには、ナズナ・里芋・大根・人参・ごぼう・油揚げなどを入れる。七草というのは、ナズナのことだという。野菜を刻む時の唱えごとはしないが、七草ガユを作った鍋の洗い水を井戸の周りにまくと、蛇がはいらないといわれている。
高尾では、ナズナとその外の菜類、餅を入れて七草ガユをつくる。まないたの上で菜を刻む時の唱え言葉は「七草ナズナ、トートの鳥が日本の国に渡らぬうちに・・・」である。餅続きの胃を休めるために食べるのだろうという。この日は爪切りをする日で、七草ガユあるいはナズナの汁を爪につけて切ると、その年怪我をしないという。
カユ(粥)は、水を多くしてやわらかく炊くので病人食と考えられたり、さまざまのものを炊き込むので、米を節約する代用食との印象が強いが、粥は古い米の炊き方であり、七草粥のほか、小正月や大師講のアズキ粥など、ハレの日の食べ物として神供に多く使われている。菜を刻む時の唱え言葉は関東一円で広く聞かれるが、田畑の害鳥を追い払う鳥追いの文句である。新年に当たって、農業の豊作を祈願しているのである。ナナクサガユに、タナサガシで下ろした里芋や大根をつかう例がある。ナナクサガユを食べることは、トシガミサマに上げたものをおろしていただく直会であり、それだけに特別な力を認めたのであろう。鍋の洗い水にまで、害虫を追い払う特殊な力を認めているのである。

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