北本市史 民俗編 民俗編一覧

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第9章 年中行事

第1節 正月行事

5 小正月

一月十五日を中心に、十四日から十六日ごろまでを小正月といい、さまざまな行事が行われる。小正月は、大正月に対して正式でないという意味で、女の正月、女の年取りとも呼ばれる。大晦日と同様、神社から受けてきたお祓いでミソカッパライをする所(下石戸上)もあり、もう一つの正月なのである。
かって曆が一般に使われるまでは、月の満ち欠けをもって日を数えていた。そのころは、月の出ていない一日ではなく、満月の十五日の夜を一年の境としていたのではないかとも考えられている。
公式の行事はともかくとして、民俗的に見ると、小正月が、元旦を中心にした大正月よりも重視されたのではないかと思われる。小正月に行われる行事は、マユダマ(繭玉)やハナカキ(花搔き)、ナリキゼメ(成り木責め)など、農作に関してかくあれかしと前もって実りの様子を模し、神にあらかじめ保証してもらう予祝儀礼の性格が強い。正月のお飾りは、七日に下げるところもあるが、多くは十四日に下げて、マユダマダンゴと引きかえにする。大正月から小正月に引き継がれたという意識が強い。下げたお飾りを竈で燃やして、マユダマダンゴをゆでる家もある。
正月に訪れるトシガミサマは、一年十二か月をつかさどるとともに、一年の実りをつかさどる作神だったのではないかと考えられている。その作神であるトシガミサマを、年初に当たって迎え、丁重に祭り、一年の実りを約束してもらうところに、正月の主要な意味があったのではないかと思われるのである。
荒井では、一月十三日から十六日までを小正月と意識し、さまざまな行事が行われる。十三日にはハナカキをする。ハナカキには、ハナギ(花木)といってニワトコの木を使う。ハナギはこの日の早朝ヤマにいって取ってくる。ニワトコは中に芯のある柔らかい木で、特に使い道のない木であるが、一年です一っと伸びて柔らかいので削りやすいのと、木肌が白くてきれいなのでハナカキには最適なのである。道具はハナカキガマ(花搔き鎌)といって、先きの曲がった二〇センチ足らずの小さな鎌を、鍛冶屋さんに打ってもらったり、金物屋で買ったりした。ハナギの種類は、供える神様によっていろいろで、ニワトコの枝の一段を使った一〇センチぐらいのものから十六段も便った二メートルほどのものまである。トシガミサマをはじめ、神棚に供えるものは、小さなハナギを割り竹に刺したものである。堆肥場には比較的大きな物を飾る。床の間とか、年神棚に一六段にかいた長い物を飾る家もある。

写真12 堆肥場の花木(高尾)

写真13 小正月の年神棚(高尾)


写真14 ダンゴッ木(下石戸下)

ハナギのほか、ニワトコを削ってカイカキボウ(粥搔き棒)二本と刀(ダイノコンゴウともいう)を作り、トシガミダナに飾っておく家もある。
十四日は、ダンゴサシ(団子刺し)である。ウルチ(粳)米を、ヒキウス(碾き臼)でひいて作った米の粉を水で練って、マユダマダンゴ(繭玉団子)を作る。一般にマユダマダンゴというが、丸い物や真ん中のくびれた繭形、あるいは里芋型の団子がある。これを蒸かしてダンゴッキ(団子木)に刺す。団子を刺す木は、この日ヤマに行ってコナラ(小楢)やケヤ(欅)などをとってくる。ダンゴッキは、コナラやケヤキのように、春先に芽吹く木で、多くの小枝があって団子がたくさん刺せる木が適している。
年神様のダンゴッキだけは、特別に梅の枝とか榊の枝を使う家が多い。団子も特別大きいもの十二個で、閏年は十三個にする。オカマサマ(お竈様)の団子は、三六個にするという家もある。また、年神様の団子は年男が食べるもので、女は食べてはならないともいう。家の神棚や仏壇、氏神様、俵神様などに飾るほか、ムラの神社やお寺、お堂などにも持っていって供えてきた。団子は後で外して、十五日のアズキガユ(小豆粥)にいれたり、焼いたりして食べた。
十五日は、朝アズキガユを作って食べる。アズキガユには、十一日のクワイレの時桝に入れて畑に持参した米の残りや、とりはずしたマユダマダンゴも入れる。食べる前に、ハナカキの時作り、年神棚に飾っておいたカイカキボウで搔き回す。カイカキボウは先を十文字に割って繭玉団子を挟んであるが、割れ目にたくさん米や小豆などが入ると、豊作になるという。カイカキボウはその後、神棚に上げておく。
朝食にアズキガユを食べるが、この時吹いて食べてはならない。福を吹き飛ばすとか、作物に風が吹くという。また、ハナカキの時、ニワトコの木を削って箸を作っておき、この箸で食べるという家もある。
家によっては、アズキガユでなくダンゴジル(団子汁)をこしらえる所もある。また、この日アズキガユ やダンゴジルを食べるより前(前日まで)は、汁かけ飯は食べてはならないという家もある。
アズキガユの中に太いうどんを入れ、茶碗に盛りつけてから、砂糖をかけて食べるという家もある。
「十六日は仏様の日だから、十六日の風に吹かせるな」といい、十五日か、家によっては十四日に神様に供えた御幣や注連縄、門松などをはずして燃やした。燃やした後の灰の処分にも気を配り、人に踏まれないよう粗末にならないよう、ヤマの方に持って行って撒いた。
荒井の事例によって小正月の民俗を追ってきたが、ハナギやマユダマは、作物の開花の様子や実りの様を形どったものである。マユダマは稲の花だから吹いて食べてはいけない、などの言葉に端的に表現されている。また、マユダマに里芋の形のものが含まれることから、稲以前の里芋の収穫を祈る儀礼だったのではないかとも想像できる。小さなハナをアボヒボ(粟穂・稗穂)と呼ぶところもあり、粟や稗の予祝儀礼のなごりとみることもできよう。
年神様の物は年男が食べる、女は食べてはならないとか、神様の御幣を燃やした灰まで粗末に扱わないなどの習俗には、人々が年神様にいかに気を使ったかがよく分かるが、一年の豊凶を決める神様と考えたからであろう。
次に各行事ごとに各地の例を述べる。

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