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第9章 年中行事

第2節 春から夏の行事

6 六、七月の行事

夏の麦作儀礼
六、七月の行事として、浅間様の初山とオタキアゲという二つの民俗を紹介した。二つはそれぞれ別の行事のようにみえながら、共通する要素を含んでいる。注目すべきは、この時期の年中行事に、麦の儀礼ではないかと思われるものが多いことである。
旧暦六月一日の富士浅間様の初山参りは、県中央部から東部にかけて盛んに行われる、子供の無病息災を祈る行事である。
ところが、この日は「アサマンジュウにヒルウドン」といって、必ず小麦饅頭やウドンを食べ、神様にも供えて仕事を休む日となっている。この日の饅頭やウドンは、必ずその年の新小麦をひいてこしらえるもので、古い小麦がどんなに残っていても、新小麦をひいて使うものだという。
また、オタキアゲとか、ケツアブリという変わった行事は、県中央部の比企・入間から北足立の一部にかけて、この日行われている。六月一日の早朝、麦藁あるいは麦を脱穀したあとのバカヌカを家の門口で燃やして当たると、風邪を引かないとか、夏瘦せをしないというのである。そして、どの地方でもやはりうどんや饅頭を食べなければならない日とされている。
また、群馬県よりの児玉・大里地方でも、七月一日(かつては、旧六月一日)に同様の行事が行われている。七晚ゲと呼ばれるもので、七月一日から七日間門口で麦藁を焚いて当たる。夏瘦せを防ぐ、風邪を引かない、野山の物作りの虫除けである、などという。饅頭、うどんなどを食べるほか、この火で焼いた桑の葉を食べるとよいなどともいう。また、この日は辻に道きりの注連縄を張る、防ぎの行事の行われる日でもある。
六月一日は十二月一日と対比され、氷の朔日とか衣脱ぎ朔日とかいって、全国的にみそぎや物忌みをすべき日とされている。これらの門火は、火によるみそぎ、祓いとみる事ができるが、いまひとつは、やはりこの年の麦の収穫祭的な性格であり、新小麦を食べることによって、新穀の持つ威力を体内に取り込み、穢れを祓い、夏病みをもたらす病魔に対抗しようという意識である。
このほかの、北本市内の夏の麦の儀礼を拾うと次のようなものがある。七月一日は農家の休み日である。麦の収穫が終わり、田植えも済んで農家の仕事が一段落すると、六月ブルマイといって、嫁が小麦とうどんを持って実家に里帰りする。この時にはカサゴなど魚の干物も一緒に持って行く。この日には小麦饅頭を作る。この日の小麦饅頭をタコトマンジュウという。
七月六日はムイカウドン(六日うどん)といって夏負けしないように、うどんを食べる。七月八日はヨウカダンゴ(八日団子)とかヨウカカンジン(八日勧進)といって、檀徒がお寺に前もって持ち寄った新小麦を、世話人が粉にして団子を作り本尊様にお供えする。これをお参りに来た人々にお下がりとして分けるのである。 
七夕には必ずスマンジュウ(酢饅頭)をこしらえて、瓜などの成り物とともに供える。盆前には、コナバツ(粉初)といって、小麦をうどん粉にひいて重箱に入れて寺に届けた。盆の仏様の供物としても、饅頭や団子、うどんは欠かせないものとされている。送り盆の日は、ウドンを打って盆棚の縄にかけるが、これは精霊様が土産を背負って帰るショイナワだという。いずれも、この時期が収穫期の、貴重なこの地方の主作物である麦から作った食品を、ことさら重視している様子がうかがわれる事例である。

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