北本市史 民俗編 民俗編一覧

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第9章 年中行事

第1節 正月行事

1 正月の準備

年神棚とその他の神棚

写真3 年神様とオミタマ様(高尾)

正月にはトシガミサマを迎えるための祭場として、年神棚を作る。年神棚を飾るのは、一般には大神宮様の神棚のある座敷である。棚板をその年の明きの方に向けて天井からつるしてしつらえる家と、専用の棚をこしらえず、常設の大神宮様の神棚の一部を利用する家とがある。本来は毎年年神様を迎えるために年神棚をこしらえていたものであろうが、次第に簡略化されて常設の大神宮棚の一部を使用したり、あるいは床の間を使用するように変わってきたものであろう。トシガミタナには、暮れにムラの氏神様から受けてきたトシガミサマのへイソクを飾り、カミノゼン(神の膳)とか椀などとよばれる神聖な器に、雑煮などの供物を盛って供える。
トシガミサマ以外にも、正月に特別に祭る神様がある。一つはオミタマサマで、トシガミサマの棚に並べて祭り、トシガミサマと同様の供物を供える。
いま一つ、タワラガミサマ(俵神様)というのがある。タワラガミサマ(俵神様)は土間の隅に台を置き、米俵を乗せたもので、ここにも正月にへイソク(幣束)を立て、灯明をともし供物を供える。正月の間供え物をする神様は、年神様、大神宮様、オミタマ様、俵神様、荒神様、氏神様、井戸神様などである。
高尾では、一間(約一八〇センチ)ほどの長さの青竹二本を一尺(三〇センチ)ぐらいの間隔を離して渡し、真ん中をあけて、左右に葦を編んで作ったヨシノゼン(葦の膳)を乗せて縛り、年神棚をこしらえる。これを座敷の天井から新しくなった藁縄四本で、その年の明きの方に向けてつるす。左が年神様、右がオミタマサマだという。年神棚の左右にトシカミサマとオミタマサマの棚をこしらえるのである。どちらの神様にも正月の幣束を立て、二つ折りにした半紙を敷いてお飾りの餅や蜜柑、昆布などを供えて祭る。そして、 間の空いたところに新しい手拭いを掛けている。トシガミサマは新年を司る神様、オミタマサマは旧年の神様ではないかという。タワラガミサマは、入口を入った土間の右手に米俵を置いて祭っている。

写真4 俵神様(高尾)

下石戸下では、かっては大神宮様の前に棚板をつるしていたが、今は床の間の右手を年神棚として使用している。お飾りの餅を飾り、正月のいろいろの供物を供えるが 小正月に重箱に入れて供える十二個の小さな握り飯をオミタマサマと呼んでいる。
荒井で正月に祭る神様は、皇太神宮様、年神様、オミタマサマ、俵神様、仏様、氏神樣、天王様、井戸神様、荒神様、恵比寿様、便所神様、木小屋、八百万の神様などで、家によって祭る神様は少し違う。神様のオタナ(お棚)用のメアシ(女葦)は、荒川の河川敷から二十七、八日ごろに取ってくる。オタナは、七柱とか十一柱とか自分の家で祭る神様の数だけ作るが、一夜飾りを避けて三十日に飾りつける。年神様は座敷に棚板をつるす。俵神様は、台所の土間の下大黒のちかくに、臼を台にして上に四斗人りの米俵を乗せ、一寸(三センチ)ぐらいに輪切りにした大根に幣束を立て、お供えを上げる。
北中丸では、年神様、俵神様、荒神様を特別に祭る。年神様は棚をつるす家と、大神宮の神棚を使う家とある。俵神様は土間や倉、台所などに臼をひっくり返して置き、その上に米俵一俵を乗せ、幣束を立てて灯明を上げる。正月の間は、人参、ゴボウ(牛蒡)、餅などの入った雑煮を供えた。小正月にはマユダマダンゴ(繭玉団子)を供える。大がかりに祭る家では、米俵三俵を積んで祭る家もある。荒神様には幣束五本とハッチョウジメを飾る。正月に農具をきれいに洗い水引で結び、土間や倉に飾って供え物をする家もある。オミタマサマは祭らないという家が多い。

写真5 荒神様の幣束

古市埸では、正月に祭る神様は、大神宮、荒神樣、恵比寿大黒、八幡様、木小屋、俵神様である。俵神様は、収穫後の米を入れた俵を積んでおいた土間の隅に祭る。

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