北本の絵馬

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【別所稲荷】

別所稲荷

別所稲荷は、常光別所にあるので、人びとの呼称が別所稲荷という通称になってしまったのであろう。しかし、この稲荷社は吉田某氏の屋敷稲荷であって、時期は不明であるが、吉田氏の先祖が茨城県笠間市の笠間稲荷を勧請したものである。
別所稲荷は、しだいに村人の信仰をあつめ、ひいては道行く人びともそっと絵馬を奉納するようになったという。人びとの願いは、他の稲荷社と同じようで、絵馬には、向い白狐・拝み、そしてブリキの鳥居などが多く、100枚以上も奉納されている。その他、おでき・かさがなおるといわれて庶民の信仰をあつめていた。別所稲荷は、かつては通りに面しており人びとは自由に祈願した。7月下旬が祭りの日であるが、現在では屋敷を塀で囲ってしまったので、かつての繁盛のありさまは、過去のものとなってしまった。

天神様 別所稲荷蔵 (16㎝×20㎝)

天神様は普通学問の神として読み、書き、そろばんの上達を願って絵馬も奉納される。図柄は梅の紋所をはっきり描いた衣冠束帯の菅原道真であるが、道真は、また一方では農天神としても信仰されていた。別所稲荷に絵馬を奉納した祈願者の心意は知る由もないが、道真が学問の神として名を成したため、わずかに残るその一方の農天神としての信仰は、影をひそめ忘れられようとしている。


拝み (男) 別所稲荷蔵 (30㎝×35㎝)

男の拝み絵馬である。稲荷社に梅、松の図柄の配置は、一般的には子宝を得て子孫の繁盛、家運の隆盛を願って奉納するものである。絵馬の裏には、「松竹梅、 鶴は千年、亀は万年、目出度納、 紀元二千五百四十二年、北足立郡古市場村第十五番地、xxxxx内田某手筆」と記されてある。あるいは、無病息災、長命の祈願であったかもしれないが、やはり家や子孫の繁栄ともつながるものであろう。

拝み (成女) 別所稲荷蔵 (12㎝×19㎝)

成女の拝み絵馬であろうか。大きく表現された赤い提灯、松の図柄などに、無事成長したお礼の姿が感じられるが、あるいはまた、よき道連れを得て早く子宝をお授けくださるよう、との願いがこめられていたかもしれない。栢間村、ちよ女の奉納した絵馬である。


向い白狐 別所稲荷蔵 (12㎝×18㎝)

稲荷には図柄のような向い白狐の絵馬が多く奉納されている。二匹の狐の間に宝珠を描き、一四の狐は鍵をくわえている。中央上部には鳥居が描かれている。豊作の祈願は、神殿を開き(鍵)ヽ財宝を得たい(宝珠)という願いとも共通のものである。徳川後期、江戸の人たちは、狐のくわえた鍵で鳥居をくぐり神殿を開くことを子孫の誕生と結びつけ、また女体を想像してこの図柄を流行させたという。

鳥居 別所稲荷蔵 (18~32㎝×14~20㎝)

鳥居は神域の表示であるが、鳥居をニ十も三十もくぐって社殿に参るというのは稲荷社だけのように思われる。この鳥居をブリキや鉄でこしらえ板片に打ち付け絵馬として奉納した社は県内にいくつか見受けられる。しかしこの絵馬あるいは鳥居だけが数多く奉納されているのは稲荷社が多い。また奉納者も女子が多いといわれているが、誕生、安産、成女の願いなどをこめたものではないかと思われる。江戸人は、赤い鳥居を女陰になぞらえたというが、絵馬も同じような意味を合わせ持っていたものであろうか。確かなところは判明しない。


天狗 別所稲荷蔵 (15㎝×18㎝)

天狗は荒ぶる神の一つである。絵馬の図柄は、あから顔、白髪の大天狗と、蒼面の鳥天狗が描かれている。天狗は常に正直な人に味方するというところから、商売の繁盛や無病息災などの祈願をするようになった。またその霊力から、五穀の豊作や火伏せ盗難除け等の祈願もする。稲荷社に奉納されるのも、このような信仰から祈願されるようになったものであろう。

鶏 別所稲荷蔵 (11㎝×14㎝)

多くの動物が神の使いとみなされている中で、鶏もまた人びとにごく近い動物の一つである。鶏には種々の伝説や言い伝え、また暁に鳴くなどということから、野荒しや虫除け、小児の夜泣き、粉失物の発見等種々の祈願がなされる。絵馬の図柄は、親鳥のもとに三羽の雛鳥を描いたものであるが、稲荷に奉納するのは、子宝誕生、 家族安泰などの願いをこめたものではないかと思われる。

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