北本の絵馬

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【山王様】

山王様


御神体

猿を大切にし、山の神の使いとみなす習俗は、各地に残されているが、その他にも猿は浅間・厳島・日光二荒山・そして日枝神社別称山王権現の使者として有名である。加えて庚申の申待供養なども重なり猿に対する信仰は、ますます複雑多様なものとなっていった。
北袋の山王神社は、地域の人たちが”下の神様”と呼んでいるように、安産、また下の病の祈願信仰が中心である。今では地域の人たちが信仰するくらいであるが、かつては比企・大里・児玉方面の人びとも参詣したという。人間ばかりでなく牛の安産の祈願に来た人もいたという。
御神体は、社の神殿に祀ってある石刻像であるが、これは庚申像かあるいは庚申の本尊としてしばしば祀られる帝釈天かと思われる。元禄13年北袋村の斎藤喜兵衛の奉納によるものである。神殿には、他におよそ10センチメートル前後の石刻の猿が数十体奉納されている。安産を祈願して奉納したものであろうが、その形や姿からみても多くは、江戸時代中期以降奉納されたものではないかと思われる。安産祈願の心情にふさわしいイメージが、素朴な形の石猿に象徴されており、当時の信仰のありさまを今に伝えるものである。
社の周囲には100枚をこえる絵馬が奉納されている。桃持ち猿・柿持ち猿の絵馬が20数枚、女子の拝み絵馬が90枚ほどで、石猿の奉納と同様かつての人びとの信仰を物語るものである。絵馬は、鴻巣の大黒屋で売っていたというが、しろうとが描いたような図柄のものも何枚かあって面白い。


桃持ち猿 山王様蔵 (13㎝×16㎝)

桃持ち猿でもカラーの絵馬とくらベるとまことに稚拙である。名もなき庶民の手によって描かれたものと思われるが、それなりに神にたより祈願する人びとの切々たる声なき叫びが、生活の息吹きが伝わってくるように思われる。


柿持ち猿 山王様蔵 (14㎝×19㎝)

霊験あらたかな社寺から絵馬を借りて祈願し、願いが叶うと絵馬を二枚にしてお返しする絵馬奉納習俗がある。この石猿も安産を祈願してお借りし、無事お産が済むと石猿を二体にしてお返ししたという。


山王様石猿奉納

柿持ち猿で図柄は藍色のチャンチャンを着た猿が、1個の柿を手に捧げ持っている。赤いチャンチャンの桃持ち猿の安産祈願に対して、柿は普通”柿8年”の柿で、男子の生育の無事を祈って奉納されるものであるという。山王信仰は、庶民の手によって子供の成長祈願の一面をも、また合わせもつようになったのであろう。

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