北本の動植物誌 本編 北本市の多足類

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北本市の多足類
桑原幸夫

1.はじめに
筆者は,平成4年度(1992年度)より北本市の自然調査員(委託)として,北本市の多足類について調査を行なった。
多足類とは,ムカデやヤスデなどの節足動物を言うが,脊椎動物や昆虫類などに比べて注目されにくく,分類,分布,生態等の研究が遅れている動物群である。
埼玉県の多足類については,1978年埼玉県教育委員会発行の埼玉県動物誌の中で,篠原圭三郎氏により「埼玉県の多足類」として種名目録を含む総括的な報告がなされている。しかし,その中に北本市に関する記述はまったくない。
北本市の多足類について最初で唯一の記録は,「埼玉生物」26号(1986年,埼玉県高等学校生物研究会)の動植物総合調査会報告の中にある。これは,筆者が1985年5月石戸宿の農事試験場跡地周辺(現在は北里大学病院及び北本自然観察公園)を調査し,唇脚類(ムカデ)7種,倍脚類(ヤスデ)2種を報告したものである。この報告は記録種数こそ少ないが,ムサシアカムカデは埼玉県初記録,ホソヅメベニジムカデは体節の奇形により歩肢数右45本・左46本という大変珍しい標本の記録(1986年第18回東亜蜘蛛学会大会で発表)などを会んでいる。
今回の筆者の調査期間は,1992年5月から1993年6月までの約1年間であり,1994年5月に補足調査を行なった。この報告には,それ以前に調査をされていた本市委託自然調査員の採集による標本および上述した過去の記録も含んでいる。多足類の採集方法は,現地での小型クマデによるソーティング法(かきまぜ拾い取り法)が中心で,一部,落葉土壌を持ち帰り大形ツルグレン装置による標本抽出を行った。標本は,77%エタノール液浸にし,同定の後保存した。
今回,「北本の動植物誌」刊行にあたり,多足類が調査対象群の一つに選ばれたことは,陸上生態系の基部を構成する土壌動物を含むことになり,その意義は非常に大きいものと考える。
最後に,北本市史編さん室の三宮幸雄室長,ならびに不幸にも本書の刊行を見ずに黄泉の人となられた前市史専門調査員の故市川和夫先生に深く感謝の意を表する。また,標本を提供された自然調査員の南部敏明,碓井徹,内田正吉の各氏と,ハギノヒトフシムカデの同定をお願いした獨協医科大学の石井淸先生に深く感謝する。

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