デーノタメ遺跡 結語

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第5章 結語

第3節 遺跡の特徴と今後の課題

1 デーノタメ遺跡の特徴
デーノタメ遺跡の調査は久保特定土地区画整理事業を契機として、平成10年度の範囲確認調査に始まり、平成12年度~20年度の間に4度の発掘調査、さらに4度の内容確認調査等を断続的に実施してきた。その結果、第1次調査から第3次調査及び平成27年度の内容確認調査では、遺跡の南西部に縄文時代中期集落(勝坂3期~加曾利EⅢ期)が、平成28年度の内容確認調査では、遺跡の北東部に後期前葉から中葉の集落(堀之内Ⅰ期~加曾利B1期)がそれぞれ分布を異にしながら展開していることが明らかにされている。
このうち、中期集落は長楕円形を呈し、長径が210mを超える「関東最大級」の環状集落であり、低地に面して孤状に展開する後期集落は弦長で270mと極めて大規模である。また、平成19・20年度に実施した第4次調査は、中期集落の広がる台地下の低湿地部を対象としたが、170㎡という狭小な面積ながら縄文時代中期及び後期の泥炭層が良好に遺存しており、中期面ではクルミ塚・砂道跡等の遺構群、後期面ではトチ塚や木組遺構、土坑等の遺構が検出されている。
以上のようなデーノタメ遺跡の特徴を列記すれば、①縄文時代中期・後期ともに大規模な集落が良好に遺存していること、②集落が中期中葉から後期中葉まで、約1,200年間の長期にわたって継続していること、③中期及び後期の集落が利用していた水辺空間がそれぞれセットで遺存していること、である。
また、低湿地部分については、④全国的にも事例の少ない中期の泥炭層が遺存していること、⑤泥炭層中にはクルミ塚等の遺構群や豊富な植物遺体が遺存していること、⑥多量の漆塗土器を包含していること、後期面おいても、⑦トチ塚を始めとして豊富な植物遺体を遺存していること、等が特筆すべき点である。
さらに江川流域では、本遺跡の3km以内に諏訪野遺跡・高井遺跡という径200m級の大環状集落が連続しており、縄文時代中期における特異な地域性をみせていることも注意すべき点である。

2 今後の課題
さて、デーノタメ遺跡の特徴の一つは縄文時代中・後期の低湿地遺跡を伴うことである。このため、通常の台地上の遺跡とは比較にならない情報量を有しており、考古学的な調査・分析とは別に、多くの研究者の協力を得て様々な理化学的な分析が必要となるため、現在までに花粉・樹種・大型種実・土器圧痕・年代・珪藻・昆虫・同位体・漆等の調査を進めてきた。
こうした分析を総合的に進めることで、本遺跡の縄文時代中期から後期の古環境、植物資源の利用、漆工技術等を明らかにすることができると考えるが、これまでの出土遺物の特性から、縄文人の「食」や「漆工」の実態に迫る成果が期待される。中でも佐々木氏の報告(第Ⅳ章第3節)にあるように、種実の水洗選別やど土器圧痕の調査ではダイズ属やアズキ亜属等が検出されており、近年、関心の高まっている「縄文人のマメ栽培」という研究テーマに照らして興味深い。また、漆については多量の漆塗土器、漆パレット、ウルシ材、ウルシ花粉等のデータが揃っている。ウルシ栽培から漆工技術、ウルシ材の転用等、縄文中期における漆文化の復原は、すでにデータの蓄積が多い後期との比較において興味深いテーマといえよう。
ここでは「食」や「漆」といった視点を課題としてあげたが、これにとどまることなく、台地上の集落と低地との相関を見据えた調査・分析を進め、縄文人の動態に迫る成果を導き出していきたい。

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