北本の動植物誌 本編 北本市のチョウ類

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北本市の蝶相
2 a.概況
今を去る20年ほど前,斎藤良夫氏は大宮市に産する蝶類をまとめられた[27].1953年から1969年までの記録で,8科62種をあげた.今ほど開発が進んでいなかった古き良き時代の,大宮台地の蝶相をしのばせるに十分なものである.
1960年代に入ると日本の自然は大きく変わっていった.それまでの薪炭を主とした燃料から,石油・ガスに燃料がかわる.それに伴って雑木林は無価値なものになり,伐採されて開発されるカ、,手をつけないまま放り出され荒れ果てていった.
萩原昇氏は春日部市の蝶相の変遷を述べている[4].それによると1976〜77年の調査では9科55種が記録されたが,1987〜88年の綢査では7科39種を数えるのみにとどまった.僅か10年ほどの間に16種が消えたことになる。近年の開発のすさまじさは蝶の種類の激減に端的にあらわれている。
市川和夫氏は戸田市道満付近を,1991年4月から10月にかけ延べ23回調査された。その結果は,6科35種を数えた[7].春日部市の39種と大差がない.
巣瀬司氏は1986年5月から9月まで毎月2回,合計10回浦和市の見沼田んぼで調査を行った.結果は6科26種である[32].緑豊かな場所でさえ,この程度に種数が減っているのだ.
しかるに,絶滅した1種を除いて,北本市では7科60種が記録できた.1960年代までに記録された大宮市の62種と同程度の種数である.また後述する筆者のライン・センサスでは6科40種が記録できた.これらは北本市がいかに貴重な自然を今なお抱えているかの証であろう.これらをわかりやすいように整理すると表1のようになる.
表1.北本市および近隣地域の科別種類数
地 域 北本市 北本市石戸宿春日部市 大宮市 浦和市見沼戸田市道満 
調査年 1984 1986 今回 1992※ 1976-78 1987-88 1970 1986※1991※ 
調査者 日本野鳥の会 山崎 牧林 茂木 萩原 斉藤 巣瀬 市川 
セセリチョウ科 11 10 
アゲハチョウ科 
シロチョウ科 
※※シジミチョウ科 11 13 15 10 17 
テングチョウ科 
マダラチョウ科 
タテハチョウ科10 12 12 13 10 17 
ジャノメチョウ科 
合  計44 51 60 40 55 39 62 26 35 
※ ライン・センサスによる種数
※※ ウラギンシジミはシジミチョウ科に所属せしめた
大宮市でかつて記録されたもののうち[27],北本市で記録できなかったものは以下の7種である.オナガアゲハ,シルビアシジミ,メスグロヒョウモン,ウラギンスジヒョウモン,ウラギンヒョウモン,オオムラサキ,ミスジチョウ.いずれも北本市内で,かつて生息していたかも知れない種である.逆に大宮市では記録できなかったが,北本市では記録できた種は,アオバセセリ,ホソバセセリ,モンキアゲハ,ウスイロコノマチョウ,クロコノマチョウ,コジャノメの6種である.モンキアゲハ,ウスイロコノマチョウ,クロコノマチョウの3種は近年の気候の温暖化により北上しつつある蝶で,現にウスイロコノマチョウは大宮市内でも記録された[28]し,与野市でも採集された[23].
アオバセセリはもっと精査されれば発見できるかも知れない蝶であるが,ホソバセセリ,コジャノメの2種は自然度の高いところでなくては出現しない種であり,北本市が誇ってよいものであろうが,ただ記録できたというだけで,今や風前の灯,絶滅危惧種である.
春日部市の報告[4]において,絶滅あるいは絶滅?と烙印を押されたものはミヤマセセリ,アカシジミ,クロシジミ,ジャノメチョウの4種である.このうちクロシジミは春日部では1969年7月の採集記録を最後に後を絶ったが,北本市でも1970年を最後として以後,記録されていない.
筆者はこの報告において,北本市における絶滅危惧種としてミヤマセセリ,ホソバセセリ,コツバメ,コジャノメの4種を,危急種としてミヤマチャバネセセリ,ウラナミアカシジミ,オオミドリシジミ,ジャノメチョウの4種を,それぞれ位置づけておきたい.

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