北本の動植物誌 本編 北本市のチョウ類
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2 b.北本市石戸宿における蝶類個体数の季節的変動
調査地は埼玉県が自然観察公園地として整備しようとしていた場所で,谷戸をめぐって湿地が発達し,その周辺が斜面林となっている約32.9ヘクタールの地である.斜面林はクヌギーコナラ群集のいわゆる雑木林, 湿地はヨシーマコモ群集,ウリカワーコナギ群集から成り立っている.この斜面林と湿地の境界域の歩道を観察ルートとし(図1),1990年5月から1991年5月にかけ,延べ19回調査した.
表2.石戸宿における蝶の個体数綢査結果 ※個体数は150分換算値
※※出現頻度=(出現回数/調査回数)×100
観察ルートはおよそ5㎞,観察はおおよそ晴天の日の午前10時頃から,およそ2時間をかけて行った.
調査時間はそのときそのときによって,若干変励がある.例えば春先や晩秋の蝶の個体数が少ないときは調査時間は短くなり,初秋の蝶の個体数が多いときには勘定するのに時間がかかる.こうした実状を無視して同一条件にするためと,他地域での調査と比較するために,調査結果を観察時間を150分と想定した場合の補正値で示した(表2).以下のグラフも論議もすべて,150分補正値で行ってある.調査結果にもとづき,個体数の多かった順に,上位20種の消長をグラフに示すと図2になる.
調査結果からわかることは,種類数は春先からゆっくり増えだしていき,7月下旬にピークに達することで,このとき23種を数えることができた.8月中旬は一旦種類数を減らすが,8月下旬にまた増え,その後はゆるやかに種類数は減っていく.総個体数は4月下旬,5月上旬に小さな山を迎え,5月下旬に一旦数を減らすが6月上旬また小さな山にかかり,6月中旬再び小さな谷となるが6月下旬からまた個体数がふえ出し,種類数が最多なときに個体数も伸びる.8月中旬いったん中だるみがあったのち8月後半から9月にかけ爆発的にふえ,9月上旬最高潮に達する.そののちは急激に落ち込み,10月に入ってからはなだらかに個体数が減っていく(図3).
日浦勇氏はかつて奈良県橿原市箸喰と大阪市東住吉区長居において,蝶の個体数の季節的変動を調査した[5, 6].その分析において,それぞれの種の分布型を日華区系分布,シベリア型分布,マレー型分布に分け,季節的変動を論じた.植原市箸喰は典型的平地農村で,農村的自然が比較的よく残っている場所であり,大阪市長居はいわゆる長居公園で都市的自然状態にある.
北本市石戸宿における蝶の総個体数の季節的変動をこれら2か所と比較すると,箸喰より長居に近い変動の状態を示す.この事実は,シベリア型分布を示す個体数の変動に差があるから生じているものであろう.すなわち箸喰ではモンシロチョウが年間補正総個体数第1位で,特に6, 7月の個体数が非常に多い.これに対し石戸宿でのモンシロチョウの総個体数は第9位で,群集内での地位が低いこととともに6, 7月の個体数もそれほど多くない.またベニシジミは箸喰では総個体数第3位で6, 7月にかなりの数が発生するが,石戸宿の場合,ベニシジミは総個体数第6位であるが6, 7月の発生数はそれほど多くない.さらに石戸宿ではキアゲハが7月下旬個体数を増やすが,箸喰でのキアゲハは弱小勢力である.この事実が石戸宿の6月の蝶の総数が少ないことと,7月下旬から8月上旬の蝶の総数の落ち込みを減らし,一見,長居に似たグラフを描かせているのではなかろうか.
北本市石戸宿と橿原市箸喰は同じような農村的自然でありながら,蝶の総個体数の季節的変動のパターンはかなり異なるものである.従って蝶の総個体数の季節的変動のパターンからでは,それが農村的自然であるのか,都市的自然であるかは判断できない.
調査地は埼玉県が自然観察公園地として整備しようとしていた場所で,谷戸をめぐって湿地が発達し,その周辺が斜面林となっている約32.9ヘクタールの地である.斜面林はクヌギーコナラ群集のいわゆる雑木林, 湿地はヨシーマコモ群集,ウリカワーコナギ群集から成り立っている.この斜面林と湿地の境界域の歩道を観察ルートとし(図1),1990年5月から1991年5月にかけ,延べ19回調査した.
図1.調査ルート

※※出現頻度=(出現回数/調査回数)×100
調査月日 蝶 | 1990 | 1991 | ||||||||||||||||||||
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5/25 | 5/26 | 6/8 | 6/13 | 6/18 | 7/5 | 7/18 | 7/28 | 8/12 | 8/25 | 9/8 | 9/24 | 10/11 | 10/22 | 11/7 | 11/17 | 4/16 | 4/26 | 5/11 | 総数 | 出現回数 | 出現頻度 | |
ジャコウアゲハ | 1.61 | 3.6 | 5.21 | 2 | 10.5 | |||||||||||||||||
アゲハ | 3.33 | 1.67 | 1.5 | 1.5 | 8 | 4 | 21.1 | |||||||||||||||
キアゲハ | 2.73 | 6 | 3.23 | 28.8 | 16.15 | 16.67 | 3.33 | 13.33 | 2.86 | 1.5 | 94.6 | 10 | 52.6 | |||||||||
クロアゲハ | 0.91 | 1.61 | 1.67 | 1.67 | 5.86 | 4 | 21.1 | |||||||||||||||
カラスアゲハ | 1.5 | 1.5 | 1 | 0.53 | ||||||||||||||||||
ツマキチョウ | 24 | 21.43 | 1.5 | 46.93 | 3 | 15.8 | ||||||||||||||||
キチ ョ ウ | 7.5 | 1.82 | 6 | 6.45 | 6 | 9.23 | 18.33 | 20 | 33.33 | 9.47 | 3.75 | 2.5 | 20 | 3 | 2.86 | 1.5 | 151.74 | 16 | 84.2 | |||
モンキチョウ | 1.25 | 1.25 | 16.36 | 24 | 4.8 | 6.45 | 3.6 | 2.31 | 3.33 | 2.5 | 65.85 | 10 | 52.6 | |||||||||
モンシロチョウ | 5 | 8.18 | 13.2 | 14.4 | 2.4 | 1.67 | L67 | 15 | 20.53 | 5.63 | 15 | 5 | 7.5 | 4.29 | 119.47 | 14 | 73.7 | |||||
スジグロシロチョウ | 7.5 | 7.5 | 35 | 26.36 | 13.2 | 8.4 | 27.42 | 21.6 | 9.23 | 6.67 | 3 | 2.86 | 168.74 | 12 | 63.2 | |||||||
アカシジミ | 1.25 | 1.25 | 1 | 5.3 | ||||||||||||||||||
ミズイロオナガシジミ | 11.25 | 11.25 | 1 | 5.3 | ||||||||||||||||||
ミドリシジミ | 2.4 | 1.61 | 4.01 | 2 | 10.5 | |||||||||||||||||
オオミト’リシジミ | 1.61 | 1.61 | 1 | 5.3 | ||||||||||||||||||
トラフシジミ | 1.2 | 1.2 | 1 | 5.3 | ||||||||||||||||||
ベニシ ジ ミ | 1.25 | 3.64 | 6 | 6 | 1.61 | 26.4 | 34.62 | 15 | 6.67 | 23.33 | 3.16 | 5.63 | 2.5 | 2.5 | 3 | 15.71 | 1.2 | 169.02 | 17 | 89.5 | ||
ゴイシシジミ | 1.25 | 3.75 | 6 | 4.84 | 33.6 | 13.85 | 1.67 | 64.96 | 7 | 36.8 | ||||||||||||
ルリシジミ | 0.91 | 1.2 | 1.61 | 1.2 | 2.31 | 10 | 1.67 | 6 | 24.9 | 8 | 42.1 | |||||||||||
ツバメシジミ | 6.25 | 5 | 2.5 | 20.91 | 51.6 | 25.2 | 17.74 | 30 | 39.23 | 31.67 | 38.33 | 23.33 | 21.43 | 7.5 | 320.69 | 14 | 73.7 | |||||
ヤマトシジミ | 3.6 | 1.61 | 13.2 | 20.77 | 15 | 26.67 | 26.67 | 26.84 | 13.13 | 20 | 7.5 | 174.99 | II | 57.9 | ||||||||
ウラナミシジミ | 3.16 | 3.16 | 1 | 5.3 | ||||||||||||||||||
ウラギンシジミ | 2.4 | 5 | 1.58 | 8.98 | 3 | 15.8 | ||||||||||||||||
コ ミ ス ジ | 5 | 3.75 | 0.91 | 2.4 | 1.2 | 16.13 | 6 | 4.62 | 18.33 | 21.67 | 3.33 | 1.5 | 84.84 | 12 | 63.2 | |||||||
イチモンジチョウ | 5 | 7.5 | 8.75 | 3.6 | 24.85 | 4 | 21.1 | |||||||||||||||
ゴマダラチmウ | 3.6 | 3.6 | 1 | 5.3 | ||||||||||||||||||
キ タ テハ | 10 | 5 | 15 | 8.18 | 4.8 | 6 | 12.90 | 2.4 | 11.54 | 21.67 | 5 | 18.95 | 5.63 | 25 | 30 | 1.5 | 2.86 | 186.43 | 17 | 89.5 | ||
ヒメアカタテハ | 1.67 | 1.67 | 2.5 | 5.84 | 3 | 15.8 | ||||||||||||||||
ルリタテハ | 1.43 | 1.5 | 2.93 | 2 | 10.5 | |||||||||||||||||
サトキマダラヒカゲ | 2.5 | 1.82 | 3.6 | 1.67 | 9.59 | 4 | 21.1 | |||||||||||||||
ヒカゲチョウ | 2.5 | 6.36 | 8.4 | 10.8 | 1.2 | 3.33 | 1.67 | 34.26 | 7 | 36.9 | ||||||||||||
ヒメジャノ メ | 10 | 10 | 21.25 | 6.36 | 2.4 | 1.61 | 9.6 | 3.33 | 10 | 8.33 | 82.88 | 10 | 52.6 | |||||||||
ビメウラナミジャノメ | 10 | 11.25 | 1.25 | 42 | 29.03 | 8.4 | 31.67 | 55 | 5.71 | 46.5 | 240.81 | 10 | 52.6 | |||||||||
ジャノメチョウ | 1.2 | 1.67 | 2.87 | 2 | 10.5 | |||||||||||||||||
ダイミョウセセリ | 5 | 3.75 | 2.5 | 4.8 | 1.5 | 17.55 | 5 | 26.3 | ||||||||||||||
ギンイチモンジセセリ | 2.4 | 3.33 | 7.14 | 3 | 15.87 | 4 | 21.1 | |||||||||||||||
キマダラセセリ | 1.2 | 4.62 | 1.67 | 1.67 | 9.16 | 4 | 21.1 | |||||||||||||||
コチャバネセセリ | 5 | 2.5 | 1.25 | 11.29 | 4.8 | 1.67 | 1.5 | 28.01 | 7 | 36.8 | ||||||||||||
チャパネセセリ | 3.16 | 3.16 | 1 | 5.3 | ||||||||||||||||||
オオチャバネセセリ | 2.4 | 1.61 | 1.67 | 16.67 | 22.35 | 4 | 21.1 | |||||||||||||||
イチモンジセセリ | 1.25 | 1.25 | 36 | 1.2 | 20.97 | 10.8 | 4.62 | 168.33 | 161.67 | 65 | 9.47 | 1.88 | 450.04 | 12 | 63.2 | |||||||
種 数 | 12 | 11 | 16 | 14 | 15 | 16 | 20 | 23 | 13 | 20 | 17 | 16 | 9 | 6 | 6 | 6 | 8 | 11 | 13 | |||
個 体 数 | 67.5 | 61.25 | 120 | 105.45 | 144 | 141.6 | 170.97 | 229.2 | 173.08 | 355 | 376.67 | 231.67 | 96.32 | 35.63 | 67.5 | 67.5 | 49.5 | 88.57 | 82.5 | 2.678.96 |
調査時間はそのときそのときによって,若干変励がある.例えば春先や晩秋の蝶の個体数が少ないときは調査時間は短くなり,初秋の蝶の個体数が多いときには勘定するのに時間がかかる.こうした実状を無視して同一条件にするためと,他地域での調査と比較するために,調査結果を観察時間を150分と想定した場合の補正値で示した(表2).以下のグラフも論議もすべて,150分補正値で行ってある.調査結果にもとづき,個体数の多かった順に,上位20種の消長をグラフに示すと図2になる.
図2.上位20種の季節的消長

北本市石戸宿における蝶の総個体数の季節的変動をこれら2か所と比較すると,箸喰より長居に近い変動の状態を示す.この事実は,シベリア型分布を示す個体数の変動に差があるから生じているものであろう.すなわち箸喰ではモンシロチョウが年間補正総個体数第1位で,特に6, 7月の個体数が非常に多い.これに対し石戸宿でのモンシロチョウの総個体数は第9位で,群集内での地位が低いこととともに6, 7月の個体数もそれほど多くない.またベニシジミは箸喰では総個体数第3位で6, 7月にかなりの数が発生するが,石戸宿の場合,ベニシジミは総個体数第6位であるが6, 7月の発生数はそれほど多くない.さらに石戸宿ではキアゲハが7月下旬個体数を増やすが,箸喰でのキアゲハは弱小勢力である.この事実が石戸宿の6月の蝶の総数が少ないことと,7月下旬から8月上旬の蝶の総数の落ち込みを減らし,一見,長居に似たグラフを描かせているのではなかろうか.
北本市石戸宿と橿原市箸喰は同じような農村的自然でありながら,蝶の総個体数の季節的変動のパターンはかなり異なるものである.従って蝶の総個体数の季節的変動のパターンからでは,それが農村的自然であるのか,都市的自然であるかは判断できない.