デーノタメ遺跡 各種分析の概要
第4章 各種分析の概要
第2節 花粉分析
楡井 尊
発掘地点の東部壁面で、試料採取し花粉分析を行った。花粉ダイアグラムには、主要な分類群だけ選んで表示した。花粉化石群の特徴から4つの花粉帯に区分した。下位より説明する。KD-4帯(Ⅳ~Ⅲ層)
ゴヨウマツ類・トウヒ属・ツガ属がそろって多く、コナラ亜属はやや少ない。アカガシ亜属は伴わない。やや冷涼な古気候が推定される。年代は測定されていないが、花粉化石群は終氷期最末期から後氷期の初期の特徴を示す。Ⅲ層は遺物を包含しており、花粉から推定される年代と矛盾することになる。Ⅲ層は砂層であるので、古い年代の花粉を含んだまま遺物を交えて再堆積した可能性が考えられる。
KD-3帯(Ⅰ、Ⅱb~Ⅱa層)
コナラ亜属・クルミ属が多産し、クリ属・トチノキ属・アカガシ亜属を伴う。この層準は縄文中期の遺物包含層が下位にある。オニグルミの核果やトチノキの果皮を多産する点が花粉化石の出現傾向と調和的である。クリ属・トチノキ属は虫媒であり、クリ花粉の散布範囲は狭い(清永2000)。従ってクリ属やトチノキ属の多産は、遺跡の近傍に由来すると考えられる。トチノキ属はⅠ層で連続的に出現する。なお、ウルシ属の花粉も微量ながら伴われ、その一部はウルシであるとのことである(吉川昌伸氏私信)。以上から、古気候はやや温暖で、古植生はコナラ亜属を主体としアカガシ亜属を伴う落葉広葉樹優勢の古植生を背景に、遺跡近傍にオニグルミ・クリ・トチノキが生育しており、自然植生に人為的影響が加わったものだったと 推定される。
KD-2帯(暗褐色シルト及び黒灰色粘土層)
コナラ亜属が優勢でスギやアカガシ亜属が多く、モミ属・ツガ属を伴う。一方クルミ属・クリ属・トチノキ属がほとんど無い。このことは、人間の関与が薄い為か、利用実態が変わった為か、堆積様式の変化によるものの、いずれかであろう。モミ属・ツガ属がやや多くなるのは、西方の山地に中間温帯針葉樹林が増加したことを意味すると思われ、古気候がやや冷涼化したことを示唆する。モミ属・ツガ属の明確な 増加期は、鶴ヶ島市の花粉分析結果からも報告されており(楡井ほか1989)対比可能である。
KD-1帯(暗灰色シルト層)
ニヨウマツ類が急増し、スギも多くなる。内陸部での二ヨウマツ類の増加はアカマツの増加と考えられ、おもに歴史時代以降、全国的に見られる現象である。植生破壊が進み、広葉樹林主体の森から、開けた土地が広がり、先駆植物で陽樹であるアカマツが増えたのであろう。二ヨウマツ類の増加時期は地域性があり、その地域の開発史と関わり地域性がある(那須1980)。なお、スギの増加も人工的な植林による可能性も考えられる。
文献
那須孝悌,1980.花粉分析からみた二次林の出現.関西自然保護機構会報,(4)3-9.
楡井 尊・上代徳子・柴崎達雄・小林忠夫,1989.埼玉県鶴ヶ島町逆木の池付近より得られた泥炭質堆積物中の花粉化石群集.鶴ケ島研究.6,7-18.鶴ヶ島町.
清永丈太.2000.クリ空中花粉数と母樹からの距離の関係 植生史研究8(2)81-85
第28図 花粉ダイヤグラム
写真74 トチノキ属
写真75 クリ属
写真76 クルミ属
写真77 コナラ亜属