デーノタメ遺跡 各種分析の概要

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第4章 各種分析の概要

第3節 植物遺体

1 クルミ集中区から出土したクルミ

目黒まゆ美・佐々木由香


第29図 遺構から出土したクルミの個数

デーノタメ遺跡では、縄文時代中期後半の6か所のクルミの殻が集中する箇所(クルミ塚)が検出されたほか、縄文時代後期の土坑や木組み、弥生時代後期~古墳時代前期の溝などからもクルミの殻が出土した。遺構出土のクルミは、破片まで含めると11,894点(完形個体換算数で3145点)にのぼる。遺構ごとの内訳(第29図)をみると、縄文時代中期中葉の6号クルミ塚から約半数が出土し、ついで縄文時代後期前葉の溝状遺構(SD3)から多く出土し、弥生時代末~古墳時代前期の2号溝状遺構(SD2)以外、縄文時代中期~後期にクルミが頻繁に利用されていたことがわかる。出土したクルミのなかには、完形個体のほかに、人間が割ったとみられる打撃痕を持つ破片や、リス類やネズミ類などのげっ歯類の歯形が残る動物食痕の破片がみられた。
クルミの利用は、深さ70~80cmの土坑状の遺構である縄文時代中期中葉~後葉の5号クルミ塚に特徴的にみることができる。約170点(完形個体換算数)のクルミの中で、完形個体はほとんどなく、大半が1/2ないしそれ以下の破片であった。大半(67%)は打撃痕か動物食痕をもち、土坑内に埋まったクルミは廃棄されたか周辺から流れ込んだ破片が大多数であったと考えられる。長径約3.0m、短径約1.3mの縄文時代中期中葉~後葉の6号クルミ塚では、約1,591点(完形個体換算数)が出土し、300点以上の完形個体の他に、打撃痕や動物食痕を持つ破片がほぼ同じ割合(461点と650点)で得られ、完形個体のクルミが多数出土していることから、廃棄されたクルミと自然堆積したクルミが混ざっていたと考えている。上記の5号クルミ塚や6号クルミ塚以外でも特定の形状のクルミが堆積した遺構はみられなかった。
クルミにはオニグルミと亜種のヒメグルミがあり、出土したのは99%がオニグルミであった。(第3表)。打撃痕をもつオニグルミ469点を、割った面を上面にした状態で欠損部位を7つに分けて集計したところ、頂部86%と底部75%に欠損が集中した(第30図)。これは、縄文時代の人々が、クルミよりも硬い道具を使用して、上下方向からの打撃によってクルミを割って中身を取り出していたことを示している。東京都下宅部遺跡(佐々木・工藤2006)や埼玉県南鴻沼遺跡(目黒ほか2015)でも同様の傾向がみられた。
遺構から出土した完形個体のオニグルミ366点の長さを計測した結果、遺構ごとにばらつきがみられた(第29図)。大多数は長さ25~40mmの範囲に収まるが、2号クルミ塚やSD3からは45mmを超える個体が出土した。時期別にみると縄文時代中期のクルミの長さは19.4~46.2(平均31.8±4.46)mm、後期の長さは 23.4~46.1(平均32.5±4.27)mmと、平均値では後期のものがやや大きかったが、遺跡周辺に様々なサイズのクルミが存在したことが推定された。

第30図 オニグルミ核の欠損部位

このようにデーノタメ遺跡では、クルミが遺構単位で取り上げられたことによって、遺構ごとの大きさのばらつきが検証できた。6号クルミ塚や砂道、SD3からは多くの個体が出土しながらも比較的まとまった大きさであった。また4号クルミ塚やSD5から出上した個体のばらつきは大きく、複数の樹木から採集された個体が堆積した可能性がある。これらの情報は、縄文時代におけるクルミの採集範囲やクルミ林の存在などを考えるうえで重要である。


第3表 デーノタメ遺跡から出土したクルミ(痕跡別)
遺構時期オニグルミヒメグルミ合計
(個)
完形 1/21/2
未満
完形 1/21/2
未満
痕跡
なし
動物
食痕
自然の
割れ
打撃痕
炭化
動物
食痕
動物
炭化
打撃痕不明3.6gで個体換算痕跡
なし
動物
食痕
自然の
割れ
打撃痕
炭化
動物
食痕
動物
炭化
打撃痕不明2.6gで個体換算
1号木組み後期11215
1号クルミ塚中期113263373
2号クルミ塚中期445231149452121192
3号クルミ塚中期1561628
4号クルミ塚中期5421588652181
5号クルミ塚中期15314716144170
6号クルミ塚中期161169453947094143323621127311,593
SD1中期22
SD2弥生・古墳231491323
SD3後期129061188214081151213112573
SD4中期1593321
SD5中期1215151530
SD6中期11
SD9中期13161104127
SK3中期38713118111111166
SK6後期613151416156
砂道中期8811561133321124
合計(個)2603175749870268685262653326013643,165

写真78 デーノタメ遺跡から出土したクルミ


第31図 デーノタメ遺跡から出土したクルミの長さとばらつき


引用文献
佐々木由香・工藤雄一郎 2006「大型植物遺体」『下宅部遺跡Ⅰ(1)』183-222頁、東村山市遺跡調査会
目黒まゆ美・佐々木由香・バンダリ スダルシャン 2015「南鴻沼遺跡出土の大型植物遺体」『南鴻沼遺跡(第1分冊)』173-187頁、さいたま市遺跡調査会

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