北本市史 資料編 原始

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刊行にあたって
北本市史監修者北本市史編集院長 大村 進
このたび、北本市史資料編の最終巻として、第三巻上『自然・原始資料編』、第三巻下『古代・中世資料編』が刊行されますことは、関係の皆様方の御支援、御協力の賜と深く感謝しております。
編さん事業が組織的に開始された昭和五十三年以来今日まで、すでに『近世資料編』、『近代・現代資料編』、『民俗編』を刊行して市民の皆様に読んでいただき、いろいろな御意見や御質問等もいただいて参りました。それらを伺っておりまして、市民の方々の市史に対する期待と関心の高さを痛感するとともに、その責任の重さを自覚している次第です。
毎回市史の各編を刊行する度毎に、市民に理解される市史づくりは、本当に実現できただろうか、或いは市民から愛され、共感の得られる市史づくりに取り組めたろうかと、編集関係者一同と反省の機会を持ってきました。本書を含めて今までに刊行された市史は、資料編としての性格上、誰れもが容易に理解できるようにすることは、至難のわざでありました。一つには、将来にわたって歴史認識の客観的資料となるように学問的厳密性が要求され、とかく難しくなりがちであったこと。二つには、市の文化遣産として資料を保存継承していく立場から、市の歴史に関する資料を広範に収録してあり、興味主義を貫けないことなどが挙げられましょう。それに利用される方々も年齢・性別・職業・過去の体験なども千差万別であれば、なお一層困難のほどが知れます。しかし、編集関係者としては常にそのことを念頭において、自己満足に陥らぬように自戒して進めてきたつもりです。
今回刊行いたします第三巻は、自然、原始、古代・中世の三部門から構成されております。調査データーとモノと文書・記録とを集成したもので、その点からいえば既刊の資料編とは性格を異にしています。各部門はそれぞれ独自の学問的研究視角と方法論をもっていますので、各部門の長短があい補って市史の全体像が総合的に明らかになるものと考えております。このため、当初の計画より若干頁数が超過しましたが、割愛も忍びなかったので利用者の便を図り上・下二冊に分冊することにいたしました。
ところで最近の北本市の施策の動向を、本書との関連で見てみますと、首都近郊地としては比較的豊かに残されてきた自然環境が着目されて、県営北本自然観察公園建設構想やバードサンクチュアリ指定問題があります。加えてこの地域はまた、考古や歴史の遣跡の豊かなところでもありますし、こうした自然を大切に保護し、学習の対象といたしますことは北本市政の基本でもあります。また本書からも認識されますように、人間の歴史がその舞台となる自然条件によって規定されること、言い変えれば人間の自然に対する適応と克服の過程が、人文条件と共に歴史認識の重要な視点であること、及び最近の環境問題に対する市民の高い関心という現代的課題にも応ずるものと言えましょう。その意味で、本書の果たす役割には大きいものがあります。
本書に収載いたしましたのは自然部門と原始部門であります。まず自然部門につきましては、従来あまり調査される機会の少なかった北本市とその周辺の地域について、市民の生活の舞台を提供してくれる自然環境、すなわち地形、地質、土壌、気候、水、植物、動物の七領域について継続的に実地調査し、その成果を編集集録してあります。そして、それぞれの自然環境の調査は、ともすれば個別になりがちなので、基礎資料の収集にあたっては、それら相互の関連を有機的に連繫させるように配慮してあります。また、市史の一環という視点から従来市域で民俗伝承とされてきた天気・俚諺などについても、これを科学的に実証するよう配慮するなど市民の今後の研究に資するよう工夫いたしました。また河川と共生する当市の特性を踏まえて水生動物の調査を実施し、豊富な生息事例の確認とともに、山地渓流にしか見られない珍種・奇種を発見しましたことは、本書のもつ県下の動物史研究のうえでの大きな成果といえましょう。
原始部門につきましては、単なる遗跡•遣物の調査成果の羅列とせず、生活史解明という側面から、生活環境条件の基本となる川に着目し、荒川流域・江川流域・赤堀川流域の三地域区分により、時代別に配列しました。まず市域の遺跡の概観と研究史を述べ、各遺跡の全体的・包括的な位置づけを行い、次に河川水系別に遺跡概観と個別遺跡を時代別に紹介し、一遣跡が各時代に応じて重層的に記述されるという形態をとっています。収録範囲は昭和六十三年度までに発掘調査された遺跡を中心に、所在分布調査で確認された遺跡や文献などに紹介された遺跡まで含み、表採資料についても出土地を確認し収録するなどして、現在把握し得る可能なかぎりの資料を収録してあります。
以上本書編集の意図を概述しましたが、本書が多数の方々に御利用いただき、北本市の理解に役立てていただければ幸いであります。
最後に、監修者として市史の編集に情熱を傾けられ、その完成を切願しておられた江袋文男先生が、本書の上梓をまたずして鬼籍に入られたことは、親しくご指導を賜った者として痛恨のきわみであります。ここに衷心から御冥福をお祈りするとともに、この書を先生の御霊前に捧げ、刊行を報告いたしたいと思います。
  平成二年三月

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