からから揺れき 秩父嶺
秩父嶺
自慢の酒
三箇日帰れぬといふ息子思(も)ひ二枚の餅焼く夫との元旦
叔父訪へば独り居なれど為来(しきた)りの正月飾り守りてゐたり
眼鏡かけ賀状読みつつ卒寿なる叔父は逝きたる人を数ふる
一月の五日にやつと子の帰省夫は自慢の酒を取り出す
シーツ干し客蒲団干しベランダに青空見をり正月終へて
九十歳(くじふ)なる叔父丹精の聖護院炊けばほろりとくづれて甘し
陸奥に独り居の部屋思ひつつ紅濃き蘭を友へと選りぬ
賜ひたる蜜入り林檎しみじみと北の生活(たつき)を思(も)ひつつ食みぬ
夫と娘と足伸ばしあひ語りあふ踊り子号のボックス席に
亡き母と旅せしことの少なきを詫びつつ娘と湯けむりの宿