からから揺れき 秩父嶺
秩父嶺
こしあきとんぼ
季(とき)はかり蓮池訪へり茎たちて紅さす莟ややにふふめる
早朝に音たて開くと伝へ聞き小半時ほど蓮池に待つ
蓮池の水面(みなも)に映る淡紅はあめんぼ走りてしばし崩るる
散りてなほ艶もつ花弁てのひらに載するに初夏の風過ぎゆけり
とまりたる蒲の葉先のはつか揺れこしあきとんぼ白の際立つ
通勤の混み合ふホーム窓に見て娘の買ひくれしグリーン席に
箱根路の湿生花園に待望のヒマラヤに咲く青き罌粟(けし)見き
盛り過ぎてたつた二花残りたる青き罌粟なり吾(あ)を待つ如く
春嵐近づき風のすさびたる庭に出できて支柱を立つる
あらし去り風の寄せたる吹き溜り五軒も先の紅の花びら
幾度(いくたび)も濯ぎて拭ふ濡れ縁に嵐避けたる小さき羽虫
吹く風に穂波うねらせしなやかに過ぎゆくを待ち稲立ち戻る
一匹の蝗(いなご)も飛ばぬ田となりて数多の翅音(はおと)懐かしみをり
刈り終へし田の広々と風渡り畦にむれ咲く赤飯(あかまま)揺らす